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「生活科学とは何か」 温故知新 旧市大新聞を訪ねて Vol.3


Hijicho大阪市立大学新聞が誕生する60年以上前から発行されていた「市大新聞」の掲載記事をHijichoの手で復活させていくこのコーナー。今回は、1949年4月発行の「市大新聞」創刊号より、当時の家政学部 (現在の生活科学部) 部長による生活科学に関する考察だ。

全国でも生活科学部をもつ大学は少なく、それは大阪市立大学を特徴付ける学部のひとつであろう。しかし、生活科学とはいったい何であるか疑問に思っている者もいるだろう。きっとこの考察がその疑問のひとつの答えではなかろうか。
なお掲載にあたり、一部修正や注釈を加えてある。

生活科学考 ―人間は一つの多面体―
茶珍俊夫

一体生活科学という学問があるのかと質問された場合、私はサアと答え、今の段階では学問体系はなしていないでせうと付け加える。生活科学研究所長としては甚だ不見識かもしれないが実状だから止むを得ない。然し段々と学問体系は作られて行きますよとさらに付加することは忘れないであろう。これは私の負け惜しみや独りよがりでないと私は考えている。私達の生活科学研究所で横文字の看板をかけねばならなくなった時その英訳に困った。色々研究して貰った結果domesticscienceの研究所と訳することになった。一般に家庭科学と訳される言葉である。Home science もこれに近い言葉であろう。又 life や housekeeping, livelihood の研究所という言葉も考えられたがこれも生活科学なるものの内容の一部を示しているにすぎない。 science of livingというのが近いような気もするが余り奇をてらっているようで、結局domesticscienceといふことになった。私は独語のLebenserscheinungは割にピッタリするような気がする。

名称のことはこれ位にして、生活科学なるものは何者を包容したものなのかということについて私の現在の考えを述べてみたい。

人間の生活は一つの多面体であると私は思う。絵画や詩歌を楽しみ、人生を思索し、社会や政治を批判するなど、我々の生活は思考の連続である。農夫が耕し、工員がハンマーを振る間にはまとまった思考は行われていないにしても何等かの精神的な判断は行われている筈である。人間の一生、または一日の生活は生のある限り、こうした精神的な面の連続である。然し生活というものは他の一面として物質的な然も消費的な面を幾つも持っている。例えば我々の生活は物の消費の連続であることである。朝起きて使う歯みがき、水、石鹸から始まって、衣服、食事、器具、更に大きく住宅そのものも我々の生活の消費財である。此の消費されるものの科学的内容が生活科学の一つの研究対象である。

一日の生活は二十四時間の消費である。これより多くも少なくも消費することは許されない。時間は物でないかもしれないが、その一分、一秒の間にも前途の何物かが消費されている、この関連性に於いて一つの考察が行われるべきである。これも生活科学の一つの研究対象であろう。

一日の生活は生命の存する限りエネルギー消費の連続である。その消費状態を対象として幾多の研究問題が発見されるし、しかも物と時間の関連に於いては更に多くの考察が行われなければならない。

我々の生活はある制約された環境下に営まれている。大きくとれば宇宙、地球上の一分子としての人の生活であって、それから受ける制約を逸脱した我々の生活はあり得ない。モット小さく実際的な表現をするならば都会に住む人は都市生活、田舎の人は農村生活と夫々 (それぞれ) 異なった環境下に、又現在に於いては個人の力では如何ともなし難い制約を受けて生活をしている。その生活の実態を知り、物的消費の状態との関連性を究めることも亦 (また) 生活科学に与えられた課題である。

生活、殊に物質生活に結び付いた面はまだ色々あろうが先ずこれ位にしておきたい。

こうした研究、考察を行ふ場合生活科学的な立場から忘れてはならないことは我々の経済生活と生活慣習である。家では家庭の収入であり、国家では国の経済状態である。又慣習はその民族性ともいえよう。前述の諸研究課題が単に自立科学的な面からのみで結論を得たものならばそれは衛生学や生理学や建築学の範囲を出てない。生活科学的な立場はこれら自然科学的な結論を基礎としてそこに経済的、慣習的な要素を加味した具体的な結論を得ようとする行き方であると私は考えている。過去に於いては我々の生活は経済と慣習に余りにも拘泥し過ぎて来た。自立科学的な見方を余りにも無視し過ぎて来た。この立場を変えて見直そうとするのが生活科学に与えられた使命であり、此の見方、考え方で生活現象を体系づけて行きたいというのが私の生活科学考である。(大阪市立大家政学部部長、市立生研究所長)

旧「市大新聞」のバックナンバーは全て、学術情報センター内6階の大学史資料室で閲覧することができる。また、資料室では、「市大新聞」だけでなく、学内で発行された様々な冊子や市大とその前身となる大学・専門学校の歴史資料等を保管しており、所蔵資料は閲覧、複写、および撮影することが可能である (ただし室長の許可が必要)。

大阪市立大学大学史資料室

所在場所 大学内、学術情報総合センター6階
開室時間 9:30~12:00、12:45~16:00
休室日 毎週土曜・日曜、祝日、年末年始
Tel:06-6605-3371
E‐mail:archives@ado.osaka-cu.ac.jp

文責

田中優衣 (Hijicho)


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