ずんだもん:わーい!やっと念願の「株式会社ずんだ商店」を開業することができたのだ!これでやっと、たくさんの人たちに僕の作ったずんだ餅を食べてもらえるのだ!!
めたん:あら、ずんだもん。何をやってるの?
ずんだもん:めたん!ついに自分のお店を持つことができたのだ!早速買っていってほしいのだ!
めたん:そうなの、よかったわね。じゃあ、お1つ頂こうかしら。
ずんたもん:ありがとうなのだ!
めたん:そういえば、ずんだもん、あなた資金なんてほとんど持ってなかったでしょ。どうやって、このずんだ餅作ったのよ。
ずんだもん:安心してほしいのだ!開業資金や原材料費は、この「約束手形」というもので支払うことができるのだ!これは、取引の数カ月後に約束手形と交換する形で代金を支払う、いわゆる後払いシステムなのだ!※1
めたん:かなり危なそうだけど、本当に大丈夫なの?
ずんだもん:大丈夫!僕が心をこめて作ったずんだ餅、きっと評判になって毎日売り切れるはずなのだ!
〜数カ月後〜
ずんだもん:今日も1つも売れなかったのだ…。最初はみんな買ってくれたけど、最近はまったく買いに来てくれなくなったのだ…。
???:ごめんくださーい。
ずんだもん:やったなのだ!お客さんが来てくれたのだ!
銀行員A:すいません、約束手形の支払期日が迫ってきていますので、そろそろ口座にご入金いただきたく思いまして…。
ずんだもん:あっ…。申し訳ないのだ。すぐに入金するのだ。
銀行員A:よろしくお願いします。
ずんだもん:(手元に資金なんてまったく無いのだ。どうしよう…)
ずんだもん:そうだ!名案を思いついたのだ!
〜数日後〜
銀行員A:もう期日ですが、入金の確認が取れていません。早く入金お願いします!
ずんだもん:ん?なんのことだか知らないのだ。
銀行員A:いや、あなたの「ずんだ商店」名義の約束手形のことですよ!もう期日です!
ずんだもん:「ずんだ商店」はもう廃業したのだ。そんなもの、もうこの世に存在しないのだ。このお店は、「ズンダ商店」なのだ。
あんたの銀行とも、もう解約するのだ。おさらばなのだ。
銀行員A:そんなこと認められるわけないでしょ!
ずんだもん:さぁ、早く出ていけなのだ。
銀行員A:くそっ。法的手段を取らせていただきますよ!
ずんだもん:好きにすればいいのだ。
さて、弁護士さんを雇うお金もないので、自己防衛なのだ。さっそく、この事例についてお勉強なのだ。
ーーー
ずんだもん:というわけで、今回は商法分野における、「商号続用」に関する問題、判例を解説していくのだ!
めたん:ずんだもん、やっぱりだめじゃない。というか、こんなバカなこと実際にする人いるの?
ずんだもん:それが意外と多いのだ!みんな考えることは同じなのだ!
めたん:でも、そんな卑怯なこと認められるわけないでしょ?
ずんだもん:それをこれから考察していくのだ!
めたん:わかったわ。しっかり教えてね。
ずんだもん:さっそくなんだけど、「商号」ってなんなのか知っているのだ?
めたん:お店の名前じゃないの?
ずんだもん:具体的に言うと、登記上の名前が商号となるのだ!これは、店舗名などの屋号と違って、法的な拘束力があるのだ!!
では、さっそく代表的な判例を紹介するのだ!
[営業譲渡と商号の続用(最判昭和38年3月1日民集17巻2号280頁、判時336号37頁)]
めたん:ずいぶん古いわね。
ずんだもん:昔からこんなやつはいるのだ。
事件の概要を教えると、穀物販売を主として経営をしていた「有限会社米安商店」が「合資会社新米安商店」に営業を譲渡し、前者に請求されるはずだった手形の効力が問題となったのだ。この手形が認められるには、商号が続用されていると認められる必要があるのだ。ちなみに、後者は、施設、備品、従業員すべてをそのまま引き継いでいて、穀物販売業の登記変更も申請済みなのだ。
めたん:ふーん、名前の違いは、有限会社から合資会社になったことと、「新」ってついただけね。
ずんだもん:そうなのだ!結論から言うと、最高裁はなんと商号の続用を認めず、「合資会社新米安商店」に対する手形債権を認めなかったのだ!!
めたん:え!ということは、債務の踏み倒しに成功したってこと…?
ずんだもん:つまり、僕は絶対に勝てるのだ!!
めたん:ふ〜ん、よかったじゃない……って、あれ?類似の判例もたくさんこの本には書いてあるわよ。[約束手形金等請求事件(大阪地方裁判所昭和57年9月24日判決)]※2の判例では、商号が続用されていると認められているじゃない?これ、漢字をカタカナにしただけだけど、ずんだもんのやったことと同じじゃない?
ずんだもん:そんな判例あったのだ?
・・・アッ…アッ…
※1実際は約束手形をこんな形で簡単に使えるわけではありません。
※2「万善株式会社」と「株式会社マンゼン」→商号続用と認められた。
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。商号が続用されていると認められるか否かで法的効果(商法17条1項)を異にする以上、こういった紛争は昔から多いです。今回、ずんだもんが参考にした昭和38年判例は、会社形態の違いと、それ以上に「新」という字句が非常に争点となりました。第一審、控訴審では、「新」という字句を承継的字句と捉え、約束手形の請求を認容しましたが、上告審では、「新」を遮断的字句と捉え、約束手形の請求を認めませんでした。その根拠として、事業を再建するにあたっては、いわゆる第二会社を設立し、営業の譲渡を受けた場合、通例として「新」という字句が用いられ、社会通念上旧会社と新会社を遮断する字句と解せられるからと最高裁は判示しました。ここで問題となった商法17条1項の目的を外観信頼保護と考えるか、そうではなく別の目的と考えるかなど……論点は沢山あります。ですが、少し難しいので、ここでは割愛します。もし、こんな感じの問題に興味があると感じた方は、ぜひ商法ゼミを選んでみてくださいね。
人物紹介
ずんだもん
東北応援三姉妹、東北ずん子の武器であるずんだアローに変身することができるずんだ餅の妖精。
四国めたん
東北ずん子の同級生。
※ずんだもん、四国めたんはSSS合同会社が展開する東北ずん子プロジェクトに登場するキャラクターです。本記事は、非商用利用され、その限りにおいて許諾されています。
※本記事の画像、イラスト、文章の無断転載を固く禁じます。
参考文献
鈴木千佳子,2019,「17 営業譲渡と商号の続用」『商法判例百選』pp.36-37,有斐閣
山下友信・神田秀樹,2006,「Ⅰ-11 事業譲渡と商号の続用」『商法判例集』pp.24-25,有斐閣
田中亘,2021,『会社法』,東京大学出版会
服部育夫,1994,『商法講義』,泉文堂
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