「市大存亡の危機~無関心ではいられない~」は大阪府市大統合について様々な視点から切り込んでいき、学生の皆さんに問題意識を持ってもらうことを目的としたコーナーである。3回目となる今回は、新大学構想〈提言〉・新大学ビジョン (案) から統合についてどのような構想が持たれているか紐解いていこうと思う。
新大学構想〈提言〉と新大学ビジョン (案)
平成25年1月18日、外部有識者6名からなる大阪府市新大学構想会議から出された、新大学についての構想をまとめたものが新大学構想〈提言〉である。それを受けて平成25年4月、大阪府と大阪市では、両大学からの意見聴取や議会での議論、府の戦略本部会議と市の戦略会議での審議を経て、「新大学ビジョン (案) 」を策定した。
今後、大阪府と大阪市では、新大学ビジョン (案) についてのパブリックコメントを実施するとともに、本年8月を目処に府、市、大阪府立大学及び大阪市立大学で策定する「新大学 (案) 」において、より具体的な内容を取りまとめるとしている。
すなわち、新大学構想〈提言〉外部有識者ら→新大学ビジョン (案) /大阪府市→新大学 (案) /大阪府市・両大学、という順序で統合に関する構想が練られていくというわけである。大学側が構想に対して具体的な意見をできるのはこの3つのプロセスの中で最後の段階ということになる。
こうして今年度中に両大学教員による統合に関する検討がなされたのち、来年26年度には統合に向けた体制の一元化が進められる (法人事務組織の統合など) 。27年度には経営面での同一化を図るため法人統一がなされ、28年度には大学統合を図り、新大学がスタートする予定である。
〈提言〉の大まかな構成
1.両大学の現況
2.現状確認と課題
3.改革の基本方針
4.新大学構想 改革の3本柱と15の重点項目
新大学ビジョン (案) の大まかな構成
1.なぜ、今大学統合か
2.新大学の理念
3.理念実現に向けた戦略
4.理念実現に向けた教育研究体制
5.新大学キャンパス像
6.新大学に向けたスケジュール (案)
この二つの資料を基に新大学の構想を読み解いていく。
両大学の現状と課題・新大学の理念
大阪府立大学・大阪市立大学の両大学において、以下のような現状認識が持たれている。
・公立大学の使命である地域貢献について高い評価を受けている。
・学生一人当たりの運営交付金は他の公立大学と同水準であり、国立大学よりは低水準にある。
・両大学の運営交付金は公立大学法人化後、急速に減少している。
・これに対して両大学は大幅な人件費対策を実施 (それに伴う広範な非常勤化、組織としてのパフォーマンスの低下) し、府大では3大学再編統合や教育研究体制の改革などの大幅な改革を実施した。
・統合により、学部・分野の構成では、ほぼ国立の基幹大学が有する構成となり、 (単純合計の) 学生数では全国の公立大学で最大規模となる。
・グローバル化の進展により国際的な大学間競争が激化する中で、世界の大学と戦うには両大学とも規模が小さく、このままでは埋没しかねない状況である。
・両大学で重複する分野を見直し、今後集中すべき分野や補強する必要のある分野に人的資源を再配分する必要がある。
・基礎研究に重点が置かれた市大と、学際的・応用分野研究に重点が置かれた府大という、それぞれの強みを活かし、シナジー効果を生み出すための工夫が必要。
上記のような現状認識を踏まえて、次のような4つの理念が掲げられた。
「研究で世界と戦う大学」
アジアにおける研究者交流の拠点となる大学を目指すこと、社会が求める先端研究の推進・研究成果の社会への還元、それによる大阪の成長を支える知的インフラの役割を果たすこと、国内外の大学・企業・自治体等との連携の進展を図り、国際的に高い学術評価を目指すとしている。
その実現のために、統合のメリットを活かした分野の垣根を超えた研究や、基礎から応用までの一貫した研究を充実させること、国内外の多くの大学や企業等と共同研究を進めること、新大学の強みを発揮する分野や戦略的研究分野に集中投資を行うことなどが、具体的戦略として考えられている。
「次代を拓く人材を育成する大学」
基礎と応用を併せ持つ大学の特徴を活かし、次代に求められる幅広い教養と高度な専門知識を兼ね備えた人材を養成すること、学士課程における教養教育・基礎的な専門教育の一層の強化、国際的に活躍できるグローバル人材の育成を目指すとしている。
実現のために、外国語教育 (特に英語) の実践的能力養成の強化、海外の大学との連携の促進・単位認定大学の拡充・経済的支援などによる留学支援の強化、海外からの留学生受け入れの拡充、奨学金制度・学生生活面での支援・障がいのある学生への支援などによる学生支援の充実といった戦略が考えられている。
「地域活力の源泉となる大学」
高大連携・産学官連携・地域問題の解決などを通して地域貢献という公立大学の使命を果たすこと、公開講座等を展開して地域住民の主体的な参加を促進すること、それらを通して地域に開かれた大学を実現することなどを目的としている。
実現のために、大阪の企業との共同研究等の増加に努め、地域産業の振興に貢献すること、医工連携や大阪文化を核とした観光振興など、強い大阪の実現に貢献する研究活動に取り組むこと、大阪の発展に貢献する・起業家精神を持った人材を育てること、小中高教育機関との連携、地域の教育拠点化などがうたわれている。
「柔軟で持続的に改革する大学」
新たな教学体制のもと、教育ニーズへの柔軟な対応と効率的な組織運営を図ること、教員組織・研究成果等を定期的に見直し (評価し) 、それに基づき柔軟に・持続的に教育の質の確保に努めることなどを目指すとしている。
実現のために、理事長・学長を分離し、教学と経営の一層の充実とともに、ガバナンス強化を図ること、採用・昇任・配置転換などの教員人事システムを革新すること、大学運営における教職協働体制を確立すること、ブランド力アップ・広報戦略の強化を図ること、財務体質の強化を図り、自律性の高い運営をめざすこと、法人の自律した運営を妨げる様々な制約の撤廃に取り組むことなどが、戦略として考えられている。
終わりに
今回は両大学の現状・課題、新大学の理念の部分を大まかに要約してみた。〈提言〉と「新大学ビジョン (案) 」にはもう少し詳細に書かれているのだが、ここではその一部を抽出し、要約した。今回要約した部分を見てみると、「グローバル化」や「地域貢献」、「社会貢献」、「産官学連携」といったキーワードが多用されていることに気付いた。果たしてこうしたキーワードが具体的にどのように達成されていくのか、次回は大学構想の3本の柱と重点政策について詳しく見ていこうと思う。
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市大存亡の危機~無関心ではいられない~ vol.2 (2013/05/03)参考
文責
橋本啓佑 (Hijicho)
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