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市大理学研究科の躍進 研究科長に聞く


9月30日の大阪市会本会議において、大阪市立大学人工光合成研究拠点の設立・整備のために8億8,000万円の追加補正が認められた。また、工位武治特任教授 (大阪市立大学大学院理学研究科) と森田靖准教授 (大阪大学大学院理学研究科) らの研究グループは、有機分子スピンバッテリーを開発した。10月17日に両大学が共同でプレスリリースした。

どちらも理学研究科の素晴らしい業績だ。理学研究科長の櫻木弘之氏に、人工光合成や有機分子スピンバッテリーについて解説してもらった。

1. 「人工光合成研究拠点の整備」について

本学の理系の研究分野の垣根を越えた先端科学技術の研究を推進する目的で、理学研究科が中心となって創設された「複合先端研究機構」では、幾つかの大きな成果が生まれつつあります。その一つが、同機構の神谷教授、橋本教授 (共に理学研究科教授も兼任) らの研究グループが進めている人工光合成の研究です。特に、昨年Natureに掲載された神谷教授らの研究グループによる「光合成による酸素発生機構の分子的な解明」が注目を浴びています。

植物が光合成により、光のエネルギーを使って水と二酸化炭素から炭水化物を合成し酸素を発生させる、という事は学校で習って誰でも知っています。そのメカニズムも殆どは解明されていましたが、一つだけ分かっていない事がありました。それは、光合成の第1段階で、太陽光のエネルギーを受け取って、それを化学エネルギーに変え、そのエネルギーで水を水素と酸素に分解し酸素を発生させる、このもっとも重要な光化学反応を担っているPSⅡと呼ばれるタンパク質の中にある「金属クラスター」の化学構造です。神谷教授らはX線を使った高分解能解析により、この化学構造を世界で初めて解明しました。

この成果の真の意義は単なる光合成のメカニズム解明 (これ自体もすごいことですが) ではありません。この化学構造を元にして、水を分解し酸素を発生させることができる新しい触媒 (化学反応を促進する物質) を開発して植物を用いない「人工光合成」を実現し、更にはそれを用いてバイオメタノールを生産する、という夢のような技術開発の可能性が開けたことを意味します。無論、その実現には越えなければならない多くのハードルが存在しますが、大阪市は、このプロジェクトの社会的重要性を認め、この研究成果をはじめ本学で進められてきた関連研究を核に、大学の枠を超えて内外の企業・研究機関と連携してこの研究プロジェクトを本格的に推進する「人工光合成研究拠点」を設立・整備することを決め、そのための費用として、本年度の補正予算で総額8.8億円を措置することを決定しました。今後の成果を大いに期待しています。

2. 「レアメタルフリーの大容量有機分子スピンバッテリーの開発」について

これは本学理学研究科の工位 (たくい) 武治特任教授の研究グループが、大阪大学理学研究科の森田靖准教授の研究グループと共同で開発したものです。携帯電話やパソコンなどで現在広く使われて従来のリチウムイオン電池には、希少金属 (レアメタル) の一種であるコバルトが電極に使われていますが、ご存知のように近年レアメタルは国際的にも需要が高まり資源不足や価格高騰等でその確保が困難になりつつあり、国際問題にもなりつつあります。このような中、工位特任教授らは、コバルトの代りに、電気を効率よく蓄えることのできる「トリオキソトリアンギュレン (TOT)」という有機物 (炭素化合物) を含む何種類かの有機スピン分子を理論設計し化学合成することで、レアメタルを必要としない、新しいリチウムイオン電池を開発したものです。しかも従来のリチウムイオン電池の約2倍の電気容量、1.3倍の放電容量をもつ電池が出来たと報告されています。

この研究成果は去る10月17日、この研究分野では国際的に最も権威のある学術誌の一つである Nature Materialsの電子版に速報として掲載され、NHKニュース (全国放送) や新聞各紙でも大きく報道されました。これは、本学理学研究科の基礎研究と技術開発研究のレベルの高さの一端を示すものとして、大変誇らしい成果です。この研究は、現在は開発段階ですが、実用化に向けて産学連携で研究が進められる予定で、今後の資源、エネルギー、産業、経済など社会への大きな波及効果も期待されます。

理学研究科長 櫻木 弘之

文責

水野佑充子 (Hijicho)


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