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教授が語る夢 人権問題研究センター・古久保さくら准教授


市大の様々な分野の教授にインタビューをし、個人的な夢や思想を聞くことで教授自身のことを深く追究していくコーナーです。第6回は、人権問題研究センター・創造都市研究科の古久保さくら准教授にお話を伺いました。

写真=古久保さくら准教授

現在はどのような研究をなさっているのでしょうか?

被差別部落出身の女性たちの運動について、彼女たちがどのような思いで活動してきたのかを、インタビューや各種の資料を通じて明らかにしようと思っています。特に、被差別出身の女性たちと、第二次フェミニズム運動の中心を担った新中間層 (注1) の女性たちとの対比により、当時の女性像を全体的に明らかにしていこうと考えています。

当時の時代背景から説明しましょう。第一次フェミニズム運動を経て、法制度的には男女平等は実現したはずでした。しかし依然として「男は仕事」「女は家事・育児」のような性別役割分業は存在していました。「これはおかしいんじゃないか?」と異を唱えたのがウーマンリブ運動であり、実態面での不平等からの解放を求める第二次フェミニズム運動が起こります。しかしここで中心となって動いたのは、経済的にも余裕がある新中間層以上の女性たちでした。対して貧困に苦しみ、子供を進学させることも難しかった被差別部落の女性は、こうした運動には積極的になれませんでした。すべての女性が、ウーマンリブ運動に参加したというわけではなかったのです。おそらく彼女たちはその身をもって感じた部落差別の実態や仲間内での貧困の共有によって、新中間層女性とは異なる思いを抱いていたことでしょう。ですから、こうした彼女たちの思いを対比することによって、これまで見えてこなかった新しい当時の女性像が浮かんでくるはず、ということになりますね。

注1:主に大企業などで働く賃金労働者で肉体労働に従事せず、頭脳労働に従事する事務職労働者を指す。産業資本成立以前から存在する自作農や商店主などの旧中間層の対義語である。

研究の意義を教えてください

フェミニズムの研究というと、これまでは中心となった新中間層を対象としたものがほとんどでしたので、同時代の被差別部落の女性運動を研究するということそのものが意義となるでしょう。被差別部落の女性というウーマンリブの波に乗り切れなかった女性を見ることで、当時の全体的な女性像を見ることが出来ます。

近現代女性史をトータルに捉えるためには、「成功した」女性だけではなく、「成功できなかった」女性に目を向けることが必要とされていると感じています。例えば、男女雇用機会均等法(1986年施行)などの法整備の結果、社会に進出できた女性だけをみて「男女格差はなくなった」と主張するのはあまり適切ではありません。社会進出できなかった、つまり「成功できなかった」女性のところにも男女格差はあるのですから。

なぜ、どのようにして今の道に?

私はもともと東京で年少時代を過ごしたのですが、当時の公害問題をきっかけに農村に興味を抱くようになりました。農村は、都市部の影響で傷ついているのではないのか、ということが気になったのです。そのため大学では農学部に進学し、農村女性史に焦点を当てることにしました。

そこで私が注目したのは、近代農村と「良妻賢母」規範との関係でした。「良妻賢母」というのは今では疑問視されることもある女性観ですが、女性が家庭を支えるというこの思想は、当時の女性にとっては地位向上という一面ももつもので、これは女子教育の基本的理念でした。しかし一方で農村の女性は過酷な農業労務に追われていたため、「良妻賢母」になる余裕などありませんでした。そのため農村女性の目には、この規範が階層的な意味合いを持つようになり、大変魅力的に映ったのだと思います。日本各地に女学校が出来るなど、「良妻賢母」主義が広がるいっぽうで、そうなれなかった女性は何を思ったのでしょうか?この視点は、はじめに説明した現在の研究にもつながっていますね。被差別部落の女性にしても農村女性にしても、ともに当時の女性像の「メインストリーム」からは外れた人とみなされた人たちです。繰り返しになりますが、私はこのような女性の思いを知ることが、当時の女性たちの全体像をよりはっきりとさせるために有効だと考えています。このような経緯で、私は女性史を研究するようになりました。そしてまた、同時に「良妻賢母」のようなジェンダーに関わる規範の浸透にお言える教育の機能に着目する中で、人権教育、ジェンダー平等教育の研究も始めることになったのです。 

先生の夢は何でしょうか?

ジェンダーの問題を、より多くの人に正しく理解してもらいたいです。

世間一般では「フェミニズム」は、ごく一部のフェミニストと呼ばれるような人たちがその活動をひっぱってきたものだ思われがちです。私は「フェミニズム」は、個人名がつくようなものではないと考えています。

今日においても様々な女性たちが、自分たちの置かれている状況は不当なんじゃないか、社会問題として解決するべきなんじゃないかと考え、改善していくために活動しています。私自身「フェミニズム」というのは、このような様々な女性たちが今ある社会状況を改善していく活動・思想潮流だと理解しています。
だからこそ、ジェンダーに関して、様々な活動や思想があるというのを伝えていきたい。そして、様々なジェンダーの活動や思想に目を向ける社会になれば、いろんなことが見えてくるのではないかと思います。

市大生に向けてメッセージをお願いします

市大生は卒業後、社会の中核を担っていく人になると思います。会社に勤める人もいるでしょうし、弁護士や行政マンや医者になる人もいるでしょう。そういうことを考えた時に、人権意識がある人として巣立っていって欲しいです。

ジェンダーの問題は全ての人に関わる問題です。ジェンダーに関する問題を少しでも知って、自分と違う立場の人に目配りができるような人になって欲しい。そして、ジェンダーに関する問題を社会全体の問題として捉え、社社会全体をどう変えていけるのかという視点を持てる人になって欲しいです。

リーダーが意識を持たない限り、社会は変わっていかないと思います。そこで、どんな分野でも中核を担っていく皆さんが、少しでもジェンダー平等ということを意識して、リーダーになっていただきたいです。

From editor

古久保先生に、ご自身のジェンダーに関する研究の内容や、それにかける想いについて語っていただいた。古久保先生の研究は、フェミニズム運動の中でも今まで光のあたってこなかった被差別部落の女性を研究することで当時の女性像をよりはっきりさせるという意義がある。そして、そのような意義は「先生の夢」に「ジェンダーの問題を、より多くの人に正しく理解してもらいたい」という想いで現れている。

古久保先生は、市大生に「人権意識がある人として巣立っていって欲しい」とのメッセージを寄せてくれた。我々は卒業後、社会の一翼を担っていく。その際に、自分と違う立場の人と関わっていくことも数多くあるだろう。その中で、「自分と違う立場の人に目配りできること」、そして「それを社会の問題として捉え、社会全体をどう変えていけるのかという視点を持つこと」というのは非常に大切だ。では、そのような意識を持つにはどうすればよいのか。

飛辞書「人権週間」で取り上げたように、12月4日〜12月10日は人権週間だ。本大学でも、人権週間中は、文化系サークル連合所属のサークルを中心に、様々な人権に関する企画が行われる。人権意識を持つためには、まずは知ることから始める必要がある。この機会に、ジェンダー問題やその他の人権問題における様々な活動や思想に目を向けて「正しい理解」への第一歩を進めてみようではないか。 (鶴木)

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飛辞書 〜文理を越えるその言葉〜 「人権週間」(http://hijicho.com/?post_type=hijisho&p=10238)
文化系サークル連合主催 「人権週間」 (近日公開)

文責

山中仁志 (Hijicho)
鶴木貴詩 (Hijicho)


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