今年1月、長野県軽井沢市で夜行スキーツアーバスが転落し、大学生13人を含む15人が死亡、26人が負傷する事故があったことは、記憶にも新しい。大学生が旅行や帰省で長距離移動する上で、夜行バスは安価かつ、睡眠時間を有効に活用できる便利な交通手段である。しかし、数年に1度、このような痛ましい事故が起こっているという事実は無視できない。利用者である我々が、少しでも安全に夜行バスを利用するためにはどうすればよいのだろうか。
事故が起こる構造と安全対策
まず、なぜ痛ましい事故が起こっているのか、その理由を考察する。
かつて夜行バスは高速乗合バスと高速ツアーバスの2種類が存在した。高速路線バスはバス会社が直営でバスを運行する方式、高速ツアーバスは旅行会社が企画した都市間移動を目的としたツアーを、下請けのバス会社が運行する方式だった。やがて高速乗合バスと高速ツアーバスはシェアを奪い合う関係となり、価格競争へと発展していった。しかし、その際に高速ツアーバスを企画する旅行会社は、少しでも安い価格で運行できるよう、下請けのバス会社に採算ラインぎりぎりで運行を委託するようになっていった。そのあおりを受けたバス会社も、規制緩和の影響で同業者が急増し、生き残りをかけるために採算ラインぎりぎりの安い価格でバスを運行しなければならない状況へと追い詰められていった。そのような状況が、運転手の過労や日雇い運転手の雇用、長距離運行にも関わらず交代運転手がいない、点検が不十分な車の使用など、安全運行を犠牲にする運びへとなった。2007年には大阪府吹田市でモノレールの橋脚にバスが激突し、運転手1人が死亡する事故が 、さらに2012年には関越道で高速道路の防音壁に激突し、乗客7人が死亡する事故が発生している。
このような状況を解決するために、国土交通省は2013年、高速路線バスと高速ツアーバスを新高速乗合バスという方式に一体化した。新高速乗合バスとそれまでの高速路線バス、高速ツアーバスと大きく異なる点は、旅行会社が都市間輸送を目的としたツアーを企画できなくなったことと、バスの運行を別の運行会社に委託する際、国土交通省の認可が必要となったことである。
しかしこれは都市間輸送に限る話であり、今年発生したスキーツアーバス転落事故のようなツアーバスに関しては、これまでのように旅行会社が下請けのバス会社に安価で運行を委託することが可能である。また、旅行会社が新たにバス会社を設立し、それまでと同じように下請けのバス会社に委託して運行するようになったため、価格競争は依然残っており、いくら国土交通省の認可があったとしても、利益を追求するために安全を犠牲にする会社が現れないとは言い切れない。
安全に夜行バスを利用するためにできること
上記のような構造にある以上、100%安全なバス会社など存在するはずがない。そこで、我々利用者が事故に巻き込まれないためにできることを紹介する。
1. シートベルトを着用しよう。
今年1月に発生したスキーツアーバス転落事故では、ほとんどの乗客がシートベルトを着用していなかった。実際、高速道路走行中はシートベルトの着用が道路交通法で義務付けられているにもかかわらず、シートベルトを着用しない乗客が多く見受けられる。
シートベルトを着用すれば、衝突時に被害を軽減したり、車外放出の危険性を低減したりすることができる。事故はいつ起きてもおかしくないのだから、夜行バスに限らず高速道路を走行するバスに乗るときは、必ずシートベルトを着用しよう。
2. 口コミサイトを利用しよう。
実際にバスを使った感想がまとめられた口コミサイトが存在する。実際に口コミサイトを見てみると、「快適だった」、「運転手の接客が丁寧だった」などの乗客のメリットとなる情報だけでなく、「運転が荒かった」、「乗り場がわかりにくかった」などのデメリットとなる情報も書き込まれていた。どのバス会社のバスを利用するか迷った際は、口コミサイトを参考にしよう。
3. 価格を見て考えよう。
バスの運行には人件費以外にも、燃料費や車両維持費など、さまざまなコストがかかる。にもかかわらず、きちんと採算が取れるのか疑わしい価格で運行するバス会社もある。あまりにも安すぎるものは、価格を下げるために何かが犠牲になっている可能性も否めない。
夜行バスの未来
国土交通省やバス製造メーカーも、このような状況を懸念し、様々な対策を行っている。
メーカーは、障害物を検知すると自動ブレーキをかけるシステムや、蛇行運転や車線を逸脱したときに警告音や警告表示をする装置のついたバスを開発している。
また国土交通省も、今年1月のスキーツアーバス転落事故を受けて、軽微な違反でも繰り返した場合や社会的に影響の大きい死亡事故などを起こした場合は直ちに事業許可の取り消しや停止できるなど処分を強化する方向で話を進めている。
夜行バスによる事故がなくなり、少しでも安全で快適に移動できる未来が来ることを期待したい。
参考文献
高速ツアーバス問題について ― 関越道高速ツアーバス事故と高速ツアーバスのあり方の見直し ―
文責
廣瀬瞭汰(Hijicho)
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