学問の傍ら、自分の将来についても本格的に考えなければならない大学生。そんな市大生の力になるべく新たに立ち上がったのが、この「Hijichoおしごと探訪記」のコーナーだ。 このコーナーでは、様々な社会や働く人々に取材に行き、「おしごと」に関するあれこれを発信していく。今回は、本学卒業生の漫画家である白乃雪さんにお話を伺った。 |
【プロフィール】白乃雪(しろのゆき)
奈良県出身。大阪市立大学文学部言語文化学科(現・文化構想学科)表現文化コース卒業。アフタヌーン四季賞2012春のコンテストで選考員特別賞を受賞。2016年、『月刊アフタヌーン』(講談社)にて読み切り『あたりのキッチン!』でデビュー。同タイトルにて連載開始。心温まるほっこりとした作風に定評がある。その他の著書に、『あやかしメルヒェン』『とつげきドイツぐらし』『ほのぼのドイツぐらし』『白米からは逃げられぬ』などがある。結婚を機にドイツに移住。現在は、南ドイツ・バイエルン州で暮らしている。
☆漫画家のお仕事について
ーー市大に通われていたときは、どんな大学生活を送っていましたか?
学情で友達と映画を見たことが印象に残っています。他には、友達が面白い講義を見つけるのが上手くて、自分の専攻とは全然関係のない講義にも参加しました。教授も私たちの参加に驚いていたようです(笑)。
ーー漫画家になろうと思ったのはいつですか?
割と小さいときからなりたかったように思います。小学生ぐらいの時から絵を描くことが好きで、初めて漫画を投稿したのは14歳のときでした。
ーー漫画を描く上で最大のモチベーションになっているものは何ですか?
強いて言うなら、漫画を描くこと自体の楽しさでしょうか。
ーーネームの作り方や、苦労などを教えてください。
まずはプロット(文章)を先に具体的に考えます。そのときに意識することは、キャラの性格・話のポイント・テーマです。ネームは後半はノってくるのでスイスイ描けますが、やっぱり前半は遅筆になりますね。
ーーストーリー構成やコマ割りで特に気にしていることはありますか?
作中の出来事を通して、キャラクターの内面に変化が起こるように意識しています。コマ割りに関しては、1ページ毎に一番印象づけたいコマを決めています。工夫については、既に先人が研究し尽くしているので、独自のものはあまりないですね(笑)。
ーー取材において、特に意識していることは何ですか?
取材相手に関しての情報は、出来る限り事前に調べるようにしてます。取材当日は、調べた際に分からなかった細かい部分を確認します。
ーー漫画以外の分野で、特に吸収しようとしていることは何ですか?
どうしても漫画に関係することになりますね(笑)。小説や詩など幅広い文章から、思考方法を学んだり印象的な言葉遣いを吸収したりするようにしています。
宮崎駿監督のインタビューなどもよく読みます。個人的に好きなジブリ映画は『千と千尋の神隠し』、また宮崎監督作品以外だと『耳をすませば』です。
☆作品紹介『あたりのキッチン!』
『あたりのキッチン!』1巻より
主人公の清美が定食屋『阿吽』でアルバイトする中で、様々な人と触れあう様子を描いた、ほのぼのヒューマンストーリー。極度のコミュ障である清美が、料理を通して自分の居場所を見つけていく様子が鮮やかに描かれている。飯テロ並みの料理描写の数々、魅力的で愛着の湧く登場人物たち、読後の幸福感。Hijicho部員が文句なしにお勧めしたい漫画である。
☆『あたりのキッチン!』について
ーー登場人物の名前はどのように決めていますか?
結構パッと思いつきで決めています(笑)。無意識に他漫画のキャラの名前と被ってしまったこともありました(汗)。珍しくて印象に残る苗字になるように意識しています。『あたりのキッチン!』の登場人物である鈴代(すずしろ)という苗字は、編集者さんも「綺麗な音ですね。」と気に入ってくれました。
ーー主人公の清美やその他たくさん出てくる登場人物は大学時代に出会った人などモデルがいるのでしょうか。
特にいないですね。強いて言うならヒロインの清美のきょどってる状態が、私のテンパってる時に似ていると友達に言われたことがあります。あまり嬉しくはないですが(笑)。
モデルと言えば、作中に登場する大学は市大がモデルになっています。
主人公が通う大学は市大がモデルになっている=『あたりのキッチン!』3巻(左)、4巻(右)より
ーー登場するたくさんの料理は、もともと白乃さんが習得していたレシピを登場させたのでしょうか? それとも、ストーリーに合わせてレシピを考えたのでしょうか?
ドイツに来て自炊を始めた頃に『あたりのキッチン!』を描き始めて、作中の料理は一話ごとに自分で作りました。ドイツで手に入らない食材については、実家の母に調理してもらい、全工程を写真に撮って送ってもらいました。
全くの手探りで、「野球経験がないのに野球漫画を描く」と言えば想像しやすいでしょうか。この作品がデビュー作で、試行錯誤しながら描いたことを覚えています。料理に慣れた今なら、もっと美味しいレシピが描けると思います(笑)。
ーー好きな料理は何ですか。
作るのはパスタ系です。今食べたいのは、ドイツの内陸部では入手困難なお刺身です。おいしい日本酒と共にお寿司を食べたいですね(笑)。
ーードイツに住んで驚いたことなどがありましたら、教えてください。
良い面で驚いたのは、市民の『自分が社会を構成する一員である』という高い意識です。買い物をする際に、なるべく地元の物を買って輸送に要するCO2を減らそうとしたり、環境に悪いものを買わなかったり、選挙では投票率が7割を下回らないというように、環境意識と政治意識が非常に高いです。
反対に、公共機関の対応はあまり丁寧ではありません(笑)。例えば電車の遅刻が当たり前だったり、役所での書類の受付が雑だったり。そのお陰で、親切な対応をされたときに凄く幸せを感じるようになりました(笑)。
☆市大生へメッセージ
自分に関係なさそうなことでもどんどん挑戦して、色々なことを学んでほしいです。時間のあるときにちょっと背伸びして挑戦するのは、その後の人生の選択肢を増やします。大学は、膨大な本と専門家が存在する、全漫画家がうらやむような環境です。非常に魅力的な環境であるため、私ももう一度大学生をしたいくらいです(笑)。
そして個人的に、一期一会である"生“の舞台をお勧めします。宝塚歌劇のチケットが大学の生協で学割料金で買えたはずです。学生時代、私も友達と頻繁に行っていました(笑)。
今のうちにそういったものに触れておくことで、仕事を始めたとき、フィクションの力に救われる瞬間があります。時間のある今たくさんの経験をすることが、その後の人生を華やかにしてくれますよ。
☆探訪記まとめ
人の心に残るものをつくるには何が必要だろうか? 人を感動させるのに必要なものは何であろうか? 正確な答えは分からないが、その人の人格が大きく関係するのは間違いない。
これから私たち学生は、様々な場面で自身を表現することを求められるであろう。そのとき、他人を感動させられるかどうかは、私たちの人格にかかっているのだ。そして人格を形成するのはその人の経験である。
白乃さんの豊かな学生時代の経験は、人を感動させることができる漫画へとつながっている。私たちも、時間があり多感なこの学生時代に様々な経験をすべきであろう。
文責
大川矢眞人 赤松みなみ(Hijicho)
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