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ギャップ


 「飛辞書 ~文理を越えるその言葉~」は、あなたの学科だけで使われているような特殊な言葉を取り上げ、分かりやすく説明していくコーナーである。「特定の学問分野だけで使われている言葉が、その分野を飛び越え、みなさんの知識になる」をコンセプトにしている。

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 第8回目の今回は数学の分野で使われる「ギャップ」 (gap)という言葉について取り上げる。

 

ギャップとは

 読者の皆さんは、ギャップと聞くと何を思い浮かべるだろうか。おそらく、「想像していたことと実際に見たことの差」を思い浮かべるだろう。現代では、「見た目は怖そうなのに可愛らしい一面がある」というギャップに好感を感じるなどということもあるらしい。手元の明鏡国語辞典を引くと、

①「意見・考え方の隔たり」

②「すき間・割れ目」

とある。今回紹介するギャップは、①ではなく②の意味についてのギャップについてである。

 正式な数学の専門用語ではないが、数学者は「論理に飛躍があるとき」それを「ギャップがある」という。「論理の飛躍」を「すき間」として捉えるのだ。具体的に次の簡単な例を見てほしい。

 

――Aさんは自転車で大学まで通っているが、雨の日には電車で通学する。なので毎年6月頃はお金に困る。

 

 ここでは、順接の接続詞「なので」のところにギャップがある。「なので」と書かれているからには、必ず理由が書かれていなければならない。なぜ6月だからといってお金に困るのか。そこには「6月頃は梅雨の時期であり、雨が降ると電車で通わなければならない。だから電車代がかさむ。」という説明が要されるのだ。

 

 数学では専門書の中で、命題や定理が書かれてあり、その証明が書かれているものが多い。この証明の中で、ギャップが多く見つかる。読者の諸君も高校までの数学の問題集の解答で、解説が理解できないといったことはなかっただろうか。そういった解説の中にもギャップは存在しているのだ。では、ギャップを書かずにすべて解説すれば良いのではないかと感じられている方もいることだろう。これに関して2点問題がある。1つは、専門書内のギャップをすべて埋めたとき莫大な文章量になり、その書の中で本当に伝えたかった主張に辿り着くことが困難になるということである。文章量が多いと、それらをすべて読むのは面倒である。先ほどの例で、ギャップを埋めて、

 

――Aさんは自転車で大学まで通っているが、雨の日には電車で通学する。6月頃は梅雨の時期であり梅雨では雨が降る日が多い。雨が降ると電車で通わなければならないので電車で通う日が多くなる。そして電車で通うのは交通費がかかる。なので毎年6月頃はお金に困る。

 

と書かれてあったとしよう。どうだろうか。6月頃は雨が多く降ることは自明であるのだから、交通費がかかることぐらい容易に想像ができる。しかしギャップをすべて埋めて書き下すと、どうも回りくどく、読むのも億劫になる。なので専門書内では、その読者が埋めることが可能であるだろうと感じられた部分はギャップを作り、文章量を削減するのだ。2つ目の問題は、ギャップがすべて埋められていると、「なぜそのようになるのか」といった思考のトレーニングができなくなるということだ。論理の飛躍があるとそこに疑問を感じることがあるだろう。そして次に、そのすき間を埋めようと自分で補おうとする。そういった行為は、論理的思考能力を養うことにつながるのだ。数学の専門書内でそのようなギャップを埋める行為は、初年次で学習するような基礎的な部分がしっかりできているのかという確認にもなる。ギャップを埋めるのに非常に苦労するということは、基礎ができていないということでもある。数学科のゼミでは、専門書を事前に読んで、ゼミの日に黒板を用いて書かれてあった内容を自分の言葉で説明するというものが一般的であり、専門書内のギャップを埋めずに挑むと、指導教官から「それはなぜそうなるのか」と指摘がある。なので準備段階でギャップを埋めることが要されるのだ。そういった準備を通して論理的思考能力を養っているのである。

 ギャップは数学に関わらず、また学問内に関わらず至る所に内在している。それは例えば、友人との日常会話においてもいえる。 (参考記事:会話の公理 http://hijicho.com/?p=15329) 会話をしていて、「こうだからこう」といった相手の発言に疑問を感じることも数多くある。相手の事をよく知っていたりするとその会話内のギャップを埋めることは容易であろう。だが、話し手として、それも会議などでプレゼンテーションとして説明をする場面で、ギャップを作るのはよろしくない。これを防ぐためにも、準備段階で主張に対する説明をしっかり考えなければならない。本を読んだり、人から話を聴いたり、人に説明をする際はこのギャップを意識してみてはいかがだろうか。

文責

大司 雄大 (Hijicho)


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