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会話の公理


「飛辞書 ~文理を越えるその言葉~」は、あなたの学科だけで使われているような特殊な言葉を取り上げ、分かりやすく説明していくコーナーである。「特定の学問分野だけで使われている言葉が、その分野を飛び越え、みなさんの知識になる」をコンセプトにしている。

第6回目の今回は言語学の分野で使われる「会話の公理」という言葉について取り上げる。

「会話の公理」とは

「会話の公理」 (maxims of conversation) は、言語学の中でも、発話 (utterance) (*1) の意味を扱う語用論 (pragmatics) という分野で使われる言葉だ。グライス (Grice) は、会話を円滑に運ぶための基本的なルールとして、「会話の公理」を提案した。「会話の公理」には以下の4つの公理が含まれている。

まずは「質の定理」である。これは「自分が嘘や偽りだと思っていること、確信を持てないことを言うな」というものだ。次に「量の公理」は、「必要なことを必要なだけ述べよ」というもので、発話に含まれる情報は多すぎても少なすぎてもいけない。そして「関係の公理」は、「その場の状況と関係のあることを述べよ」という意味をもっている。最後に「様態の公理」は、「簡潔かつ明瞭に述べよ」というものである。

これら4つの公理は、考えてみれば当たり前のことであるが、これらが守られていないと、会話は破綻してしまう。会話は話し手と聞き手の双方が協調しあうことで、円滑に進む。「会話の公理」は、それを簡潔にまとめたものである。

「会話の公理」が無視されるとき

さきほど、「会話の公理」が守れないと、会話が破綻すると書いたが、ときにこの公理が意図的に無視される場合がある。それは例えば次のような場合である。

A 「今晩飲みに行きませんか?」

B 「仕事が残っていまして……」

この会話におけるBの返答は、一見すると「飲みに行かないか」というAの誘いに対して関係のないことを応えているように見える。すなわち「関係の公理」に反しているのだ。しかし実際は、「仕事が残っているから、飲みには行けない」という意味を含んでいる。よって会話は破綻することはない。

またBの返答は遠まわしに応えており、「簡潔かつ明瞭に述べよ」という「様態の公理」にも反しているように見える。しかし、これもまた「関係の公理」の場合と同様に、その発話の言外の意味を聞き手が読み取ることで、会話は成り立つのだ。

「会話の公理」が無視されるそのほかの例として、皮肉がある。例えばまずい料理に対して皮肉で「おいしい」という場合、皮肉なのでその言外の意味は「まずい、おいしくない」となる。これは「自分が嘘や偽りだと思っていること、確信を持てないことを言うな」という「質の公理」に反することになる。しかしこの場合も(聞き手がそれを皮肉として受け取れなかった場合を除き)、会話は成り立つのだ。

普段何気なくしている会話には、実はこのような「会話の公理」というものがはたらいている。勿論これだけで会話、すなわち人と人とのコミュニケーションが上手くいくわけではない。相手との関係性、会話の状況、様々な要因によってコミュニケーションは成り立っている。今回はその一要因として「会話の公理」を取り上げた。もしコミュニケーションに苦手意識をもっているのであれば、この公理を意識してみるといいかもしれない。皆さんも会話の中で、一度この公理を意識してみてはいかがだろうか。

注釈
*1…文を、その文が発せられた状況に結び付けて考えるとき、その文は発話と呼ばれる

参考文献

佐久間淳一・加藤重広・町田健著『言語学入門』研究社 2004

文責

橋本啓佑 (Hijicho)


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