本学のさまざまな教授にインタビューを行い、それぞれの夢や思想を伺うことで教授自身のことを追及していくこのコーナー。第12回となる今回は本学理学研究科の幸田正典教授にお話を伺いました。幸田教授は今回、スイスの生物学専門誌において、魚類で確認された論理的思考能力について論文を発表されました。
掲載 URL http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fevo.2015.00085/full
幸田教授のプロフィールはこちら (研究室HPより)
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/biol/asoci/index.html
魚類も哺乳類のような基本的感情を持っている
-今回の論文内容を含めて、先生の研究内容についてお聞かせください
今回、発表した論文では、個体識別能力のある魚類は、どうやら論理的思考能力を持っているらしいということを示しています。今回の実験では、まず同じ大きさの互いに出会ったことのない雄3個体を用意します。そのうちの2個体を水槽に入れて闘わせ、それを観察します。勝った個体をB、負けた個体をCとします。この時点でCは自分がBより弱いという事実を把握しています。次に、AとBを闘わせ、その様子をCに観察させます。AがBに勝った場合、CはAがBより強いことを観察したことになります。Cに推測する能力があるならば、自分より強いBに勝ったAもまた、自分よりも強いことを理解しますので、CはAに対して敵意を示さないと予測されます。実際に12回のこの実験において、11匹のCはAに対して敵意を示しませんでした。ところが、AとBが闘っているところをCに観察させずにAとCを闘わせると、10回すべてでCはAに対して敵意を示しました。さらに、BとCを闘わせず、CにAとBの闘いだけを観察させても、Cは勝者のAに敵意を示しました。
このことから、魚類においてほぼ確実に、A>BかつB>CならA>Cとの論理的思考ができると結論づけられます。これまでは魚類の行動は本能的かつ生得的で単純であり、このような認知能力があるとは考えられていませんでしたが、今回の発見は魚も「考える」ことを示しています。
ここからが今後の「夢」です。現段階ではもちろん仮説ですが、今まで考えられてきたように脳の大きさと賢さが比例するとの考えではなく、ヒトに進化するはるか前、約4億年前の段階で魚類にも高い認知能力やそれに伴う感情があったと私は予測しています。そして哺乳類だけが感情や高い記憶力を持っているのではなく、実はその基本形態は脊椎動物の進化の初期段階にまでさかのぼることができるだろう、と考えています。これを実証していくことが今の夢です。そして、この実証はヒトの理解につながります。
-学生時代はどのようなことに没頭していましたか
サークル活動でサンゴ礁での海洋生物調査にいそしんでいました。調査のためにひと月ほど沖縄に滞在し、ダイビングを行ったり、モリで魚を捕り、自分でさばいたりなどもしました。また、幼少期は住んでいた場所が緑にあふれていたので、毎日のように近所の山や田んぼに遊びに行ったり、釣りに行ったりしていました。間違いなく当時の経験が今の研究に影響しています。
-現在はどのような趣味をお持ちですか
妻にも笑われるのですが、音楽鑑賞くらいでこれといった趣味はありません。強いていえば研究が趣味です。とても退職までに今の研究は完成できないし (そもそもどんな研究でも完成などない) 、退職後も今のテーマで研究に時間を費やすことになると思います。
-今の学生に求める能力は何ですか
最近は、人付き合いやいじめを意識してか、目立たないようにと幼少時代を過ごしてきたせいか、自分の意見があってもそれを押し殺す傾向があるように思え、この傾向を心配しています。自分が納得できるまでとことん考える能力あるいは、与えられたことではなく何が問題なのかを自ら見出し、そして興味を持ったことに積極的に取り組む姿勢、これが大事かなと思います。
文責
後藤遼 (Hijicho)
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