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長屋でシェアハウス 〜多様なライフスタイル〜


この春、大阪市立大学近くの遠里小野という地域で面白い試みをされている大学院生を見つけた。彼の名前は北野貴大さん。2014年3月に大阪市立大学大学院工学研究科を卒業された。彼は大学院にいる間、長屋でシェアハウスをしていたという。長屋とは細長い建物を区切って、複数の世帯で住み分ける住居形態のことである。なぜ長屋でシェアハウスをしていたのか、それは彼の研究と関係があるようだ。

北野貴大さん
写真=北野貴大さん (藤田写す)

―長屋シェアハウスをやろうと思われたきっかけは?

大阪市立大学工学部建築学科に所属し、土着的な建築や暮らし方を研究する中で「長屋」の存在を知りました。長屋は大阪が都会化する中で増え、大阪の文化や暮らしを色濃く反映した住まいとして「大阪長屋」とも呼ばれますが、現代は入居者が少なくなってきています。家族で住むには狭いし、1人で暮らすには広すぎるからです。当時シェアハウスの研究をしていたこともあって、長屋はシェアハウスに適しているのではと思いました。実地で学ぶことを重要視する研究室柄、「実際にやってみよう」ということで始まりました。

長屋は注目されるべきところが多くあります。
最近の狭小敷地では1階が駐車場 (2階がリビング) のミニ戸建てが主流になってきています。一方、長屋では地面に近いところで生活します。挨拶しようと思えば玄関を開けて通りすがりの人ともできるような距離感です。また洗濯物や植木等の外観で住居人の個性がわかることを「表出」と呼ぶのですが、長屋には表出がたくさんあります。
人付き合いは小さなきっかけから始まるものだと思います。長屋にはそういった小さなつながりがたくさんありました。例えば1週間に1度しか洗濯をしていなかったのですが、それを見た近所のおばちゃんが「生きてるか」と声を掛けてくださったこともありました。また長屋の前庭でかぼちゃを育てていたのですが、研究室で泊まることも多く、なかなか水をやることもできなかったので、看板をつくって通りかかる近所の方に水やりをお願いしたんです。

長屋でシェアハウス(かぼちゃの看板)

お散歩中の方へ
もしよろしければ庭のかぼちゃに
水をやって頂けませんか?

すると、たくさんの方が世話をしにやってきて下さいました。

大阪長屋はハレとケといって生活空間と人を招く接客空間を狭い中でもきっちり設えているのも特徴です。ですから大阪長屋の場合、長屋で住みながらお店を開いていることも多いです。また長屋の特色としてはオーナーとの距離が近いことも挙げられます。
賃貸住宅には原状回復義務(※)があるのですが、オーナーが許せば原状回復義務は生じません。本来住宅とは暮らしの中で住み手や使い手が少しずつ手を加え、より快適でより独自性を育んで愛着あるものにしていくものだと思います。長屋はオーナーが近くにいることが多く、信頼関係も築きやすいので、原状回復義務の特記事項にあたる状況を作りやすいのです。研究室ではそういった建物の面倒を良く見てくれる方を愛を持って「家守」と呼んでいました。

匿名性を楽しめる世代

―シェアハウスについて研究されていた論文が、全国で10選に選ばれたと聞きました。具体的にどのような研究をしておられたのですか?

卒業論文で100人規模のシェアハウスの中における「創発」の研究をしていました。
創発とは簡単に言うと予期せぬ出来事や予期せぬ秩序を意味します。シェアハウスは規模が大きくなると、ルールが存在しなくなります。ルールをつくっても成り立たない場合も多いです。ルールがないのにどうやって共同生活をしているのか、そこに計画できない創発が存在します。
例えば御飯時にはキッチンが混み、流し台に汚れた食器が溜まっていきます。それに気付いたある人が、他の人の食器を洗い出すのです。食べ終わって自分の食器を洗おうとした人は、自分の食器が洗ってあることに気付き、また別の人の食器を洗っていきます。
40人以上になると名前を知らない関係性が生まれます。これを「匿名性」と呼ぶのですが、匿名の親切というのは連鎖していくんです。誰がやったかわからないからこそ連鎖する。私たちの世代はつながりが希薄化している世代、と言われることもありますが、私たちは匿名性を楽しむことができる世代なんだと思います。また2人で住むと生活の重なりが大きく、変化が少ないのに比べて、40名以上のシェアハウスだと生活の重なりのレベルが小さくなり、日常の変化が大きくなります。生活の重なりはどのくらいが快適なのか、まだまだ課題はありますが、「希薄化」とひとくくりにするのではなく、多様なライフスタイルがいままさに立ち現れています。その一つが大規模シェアハウスで起こる創発だと感じていました。

※原状回復義務とは、賃貸住宅に生じる、借りた状態に戻して返す義務のことである。

From editor

今回北野さんのお話を聞く中で、画一的な生活から脱却した多様なライフスタイルが広がってきていることがわかった。ルールに縛られるのではなく、創発によって秩序を保ちながらも個々の暮らしが豊かになっていく、そんな生活は素敵だな、と感じました。

文責

 石原奈甫美 (Hijicho)

写真

 藤田悠以 (Hijicho)


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