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生活保護 冷静な議論を


人気タレントの母親が生活保護を受給していたことが、TVや雑誌などを賑わせている。これに関連して片山さつき・参議院議員らが生活保護の「不正受給」を問題視。また、 小宮山洋子・厚生労働大臣が生活保護費の支給の際、親族の扶養義務の徹底や、支給基準の引き下げを検討する考えを明らかにした。生活保護に関して様々な議論がなされているが、市大生は冷静な議論をしてほしい。

生活保護とは

生活保護法の第1条には「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」とある。また、第3条には「最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と規定されている。

したがって生活保護とは「困窮するすべての国民に対し、健康で文化的な最低限度の生活を国が保障する制度」と言える。また、1954年の厚生省 (当時) の通知により、日本国内に住む外国籍の人に対しても生活保護が準用されている。

貧困率・保護率・捕捉率
日本の貧困率 (相対的貧困率) は16%に上るが (2009年)、生活保護の利用率 (保護率) は1.6%に留まる。また、捕捉率 (生活保護利用資格のある人のうち現に利用している人の割合) も3割程度であり、必要な人に行き渡っていないことの方が問題である。

不正受給

これまで生活保護問題に関しては不正受給と絡めて語られることが多く、今回の騒動でも同様と言えよう。たしかに不正受給そのものは問題ではあるが、割合で言うと1.5%であり、金額ベースで見ると0.4%に留まる (2009年) 。

そして今回の河本準一氏の母親が不正受給でないことは明らかである。後述するが、親族の扶養は保護の要件ではない。また、河本氏は福祉事務所と協議までしている。多額の収入を得てから、その資産を十分に活用しなかったのは道徳的な価値観の分かれるところではあるが、「不正受給」というような違法性を問われるものではない。

生活保護を受給する人は

そもそも生活保護を利用しようというほど生活に困窮している人は、家族も貧困状態という場合が多い。また、生活困窮者の中には、DVや虐待された経験を持つ人も少なくない。多くが家族との関係が希薄であったり、断絶している人である。今回の河本氏と母親のような、息子に多額の収入があり親子間の仲が良いような家族は極めて例外的であり、およそ生活保護制度が想定しているモデルケースにはなり得ない。したがって、河本氏の件を基準に生活保護制度を議論するのは非常に危険であると言えよう。

扶養義務

一連の騒動で最も登場した言葉は「扶養義務」だろう。ここで扶養義務についてしっかりと理解しておきたい。実は扶養義務には二種類ある。1つは民法における扶養義務であり、もう1つは生活保護法における扶養義務である。

民法877条には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」とあり、確かに民法には親族間の扶養義務が規定されている。しかし強い扶養義務を負うのは、通説では夫婦間及び親の未成熟の子に対する関係と解されており、成人した子の親に対する義務は、余裕があれば援助する義務に留まる。また、扶養の程度や方法も、まずは当事者間での協議に委ね、国家の介入はなるべく控えるとされている。

一方、生活保護法4条1項には「利用しうる資産・能力を活用することを要件として」と規定されているが、続く2項には「扶養義務者の扶養は保護に優先して行われる」とされ、あえて「要件」ではなく「優先」という言葉が使われている。

つまり、実際に親族などから扶養があった場合にはその分を生活保護費から差し引くというものであって、扶養がされなければ生活保護費を支給しないというものではないということである。

1950年までの旧生活保護法では、親族の扶養は受給の「要件」とされていたが、法改正によってこの「要件」規定をわざわざ変更した。このことからも、現在の生活保護が親族の扶養を受給の「要件」としていないことは明らかである。
 
「水際作戦」
しかし、この「扶養義務」を自治体が悪用し、生活保護申請を窓口で受理しないというケースが多く見られる。いわゆる「水際作戦」と呼ばれるものだ。生活保護の受給の申請に来た人に対して「家族に養ってもらえ」と言って追い返すというのが典型的なパターンである。しかし繰り返しになるが、親族の扶養は生活保護の受給の要件ではないし、生活保護の申請に来る人は多くが家族と絶縁状態であったり、家族の暴力などから逃げてきた人である。また、仮に連絡を取り合っていても家族も貧困世帯という場合が多い。

親族間の扶養義務を徹底すれば、例えば夫のDVから逃げてきた人が生活保護を申請する際、離婚をしていなければ「夫に養ってもらえ」と言われてしまう。その際には夫に照会の通知が届くので、申請者の住所もわかってしまうだろう。

北九州市の事件
2005年~2007年にかけて、北九州市で毎年餓死者が出るという痛ましい事件が起きた。この内の1人は日記帳に「おにぎり食べたーい」と書き残し亡くなったというのは有名な話だ。この人は生活保護の申請に行ったが、窓口で追い返されたという。結果的に「水際作戦」によって人が亡くなっているのである。このような事例は氷山の一角に過ぎないと見るべきだろう。

法律に基づいた議論を

以上のことを踏まえれば、小宮山大臣や片山議員の言動は的外れであることが明らかである。小宮山大臣は親族の扶養義務の徹底や支給基準の引き下げを検討する考えを表明した。しかし親族の扶養義務を徹底すれば、親族間の関係は徹底的に破壊されるだろう。また「家族に迷惑はかけられない」と思い受給申請をためらう人が増え、餓死者・凍死者が増えるだろう。

片山議員はTVで「生活保護は生きるか死ぬかという人がもらうもの」とも発言。これは憲法25条に基づいた健康で文化的な最低限度の生活を保障するという生活保護法の理念に反するだろう。

TVや雑誌などで生活保護について盛んに議論がなされているが、その多くが道義的な価値観の問題を法的な制度の問題にすり替えようとしている。生活保護をはじめとする社会保障全体のあり方を議論するのは重要なことではあるが、市大生には冷静な議論をしてほしい。

文責

近藤龍志 (Hijicho)

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コメント

    • 匿名
    • 2013年 1月 29日

    私も水際作戦に合いました。
    そして、子どもにお米を食べさせるため「売り」をしました。

    姉からは生活保護を受けるなんて絶対に許さないと言われました。

    通帳の残高5万円
    離婚が成立しないから、母子手当もない。

    明確なDVでもないから、シェルターにも入れてもらえない。

    三人の子どもがいるから、次の学費が落ちたら何にもない。

    それでも生活保護はおりない。

    今は働きまくって生活してますが。
    鬱による大きな傷は日常を脅かします。

    二度とあんな思いはしたくないし、
    他の人にもしてほしくないです。

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