来年春に大阪市立大学を卒業される2部生の松本裕行さん (経4)に、2部とその廃止についてインタビューさせて頂き、当事者の視点からの意見を伺った。
Q1. 廃止される2部生の身としてどう感じますか。
本来なら4回生ともなれば、1~3回生が居り、勉強やサークル活動で様々な関係を持ち、卒業を控えて慌しい中でも楽しい大学生活を味わっていることでしょう。
しかし今の2部はそうではありません。私自身、2部写真部や1部山岳部、Ⅱ部サークル協議会に所属した他、学会に顔を出し、教授とも親交を深め、交友関係を広く持ちました。それでもやはり、自分が居るところ、愛着があるところがなくなるというのは寂しいものがあります。消滅していくしかなく、引き継ぐものさえありません。ある教授から「君は敗戦処理係だね」と揶揄されたことがあります。まさしく私はその名にピッタリの役柄だと思います。先のことをクヨクヨ考えても仕方なく、今を前向きに考えて学生生活を送っているのが、今の2部学生ではないかと推察いたします。
Q2. 廃止が決まる時、具体的に何か活動 (反対活動など) に参加したことはありますか。
第2部募集停止は2008年度に具体化して決定されたようです。廃止の噂は随分前からあったと聞き及んでいます。廃止が決定的になったのは、その年の秋頃であると思います。第2部課程の廃止に反対する会も結成され、最後の2部生が入学する以前より活発な反対活動があったようです。2009年度を迎え、新聞やテレビでの報道もありまして、最後の入学生にもある程度知られるようにもなっていました。大学側は『学部第2部募集停止に関する説明会』を2009年の6月に開催しましたが、私もその説明会に参加しました。
私自身、反対活動はしていませんでしたが、説明会は最後の第2部学生として立ち会う義務があると考えて出席していました。廃止に対する私自身のモーションはこれくらいですが、私より先輩にあたる既卒生や現在在籍している2部学生が、具体的にどのような行動や考えをもっていたかどうかは分かりません。
Q3. 廃止について納得できる点、納得できない点はどのような所ですか。
ご存知のように第2部課程 (夜間部) の廃止は時代の趨勢 (すうせい) であります。少子化による大学間の競争と経営や財政面での合理化と効率化、第2部課程が昼間に働いて夜間に勉強するという勤労学生のための課程である反面、現実にはそうした勤労学生が少なくなったという理由が主だったものでしょう。 (勤労学生という定義も正規雇用でなければならないのか、昼間の仕事の方が生活面で大きな稼ぎとなる等という点で、現代にマッチした捉え方が必要だと思いますが…)
個人的見解から申しますと、第2部廃止については前記の理由から止むを得ないものがあることは合理的に考えて、妥当と思います。しかしながら、第2部という課程および選択肢というものは、必要性がある限り、その存在意義があるものと考えます。勤労学生として、偏差値の結果などで第2部課程を選択することは個人の自由ですし、その中で頑張って第2部という枠組みなど関係ないほどに優秀な成績を修めたり、就職活動で良い雇用先の内定をもらったりする学生が数多くあります。第2部はユニークさとシブトさを兼ね備えた課程で、在籍する私でも驚きや感心することが度々あります。そうした体験から私は第2部 (夜間部) そのものの存在自体が消滅してしまうことに極めて残念な思いがいたします。
Q4. 今後2部が復活する可能性はあると思いますか。
先ほども述べました通り、第2部 (夜間部) の復活は厳しいものだと思います。一度消滅したものを再び甦らせることは不可能に等しいです。その反面、第2部課程を存続している、または改編しながら継続している大学はあります。例えば大阪教育大学の第2部課程は修業年限5年ですが、廃止の話はありません。東洋大学は廃止どころか拡充していく傾向にありますし、昼間主・夜間主・昼夜開講制というシステムで乗り切っている大学もあります。
ここでは詳しく述べられませんが、様々な理由や工夫と理念で夜間課程を継続している大学があります。こうした大学教育の経営方針や夜間課程の歴史は、1本の論文にできるくらいに濃密なものですよ。夜間課程が有する根本的課題や、今後の市立大と府立大との関係というものを考えても、今の市大第2部課程が復活するということはあり得ないでしょう。今まで5年制を4年制へ移行するなど、改編しつつも存続してきた市大第2部ですが、今少し長い目で見てほしかったなと感じます。
Q5. ご自身にとっての夜間に通うメリットはどういったところですか。
第2部課程は第1部課程とほぼ同等の実力が求められます。例えば経済学部では必修科目に若干の違いがありますが、1部と同じく卒業には132単位が必要です。また教職課程を選択した場合も同じ必修単位が求められます。2部の方が教職単位は多く、時間制限という厳しい条件の中で単位取得が求められることがあります。 (世界史通論はⅠとⅡが必修であるとか、哲学概論や倫理学概論でもⅠは必修でもⅡは単なる取得単位になるだけであるとか)
1部で開講されている講義を受講申請して、取りきれない単位を取得しに行く学生もいますが、定職を持つ身ではそうした方法がとれない悩ましい実情があります。私は2部課程と1部5限目 (2部は0限目) 、あとは集中講義の受講を駆使して中学社会科と地理歴史科の免許を取得予定ですが、公民科は1科目だけどうしても受けることができなかったので取れませんでした。
2部の講義は1部生でも受講可能で、2部生が上記のような事情で昼間に受講しに行くことと同じように1部生が講義に訪れることはよくあります。1部あっての2部、2部あっての1部という側面がある訳ですね。(こうした履修には制限がありますので、実践されたい方は担当各所とよくご相談ください。)
2部へ通うメリットですが、定職を持つ者にとっては大学に通えるという機会を得られるという点で有効な手段であります。現実的には、昼に重点を置くか、夜に重点を置くかという選択肢の中で学生生活を過ごしているのではないでしょうか。2部学生 (現役・留年・社会人・科目履修生) は、それぞれが希望と目的をもって市大2部に通っています。仕事やお金や時間などの制約の中で自分にとって2部生であることの効用最大化を図っているのでしょう。
私自身の個人的な理由から申しますと、私はどうしても大学に進学したかったという意志がありました。執念ともいいましょうか、市大に入学してから大学にいけなかったという反動や大学生になれた嬉しさというモチベーションで随分いろいろやりました。実生活でマイナス面 (所得の減少など) がありましたが、私は市大2部に来て決して後悔はしていません。
Q6. これから大阪市立大学にどうなってほしいですか。
実を申しますと、3年8ヶ月この大学に居まして、これから市大がどのようになってほしいかという希望は明確には浮かんできません。どうしてかと言いますと、(良くも悪くも) 市大はこんな所なんだな~という漠然とした認識でしかありません。
2016年度には市立大と府立大を統合した新大学が誕生するという方針があるようですが、そうなれば、市大も今まで通りではいかない改革の波に晒されることでしょう。府立大はそうした洗礼を受けて改革改編を遂げましたし、市大もそうした試練が待ち受けています。
「これから大阪市大はどうなってほしいか」という問いについては、2部廃止という憂き目に遭遇している一個人として消極的な感想しか申し上げられません。
Q7. 2部のサークルの現状について教えて下さい。
現在16サークルがあり、在籍部員はおよそ150名 (重複入部あり) になります。その内訳は複雑ですが、部員数減少で廃部に向かっているサークルもあれば、1部生の在籍部員が増加して、名目上2部サークルでありながら、実質的には1部生主体のサークルとなっているところもあります。私が協議長になってから (最初は副議長でしたが、大事件があって私が繰り上がり当選で協議長に就任しました) 、いろいろな問題や課題をクリアし、行事 (2部サークル協議会主催大掃除や記念祭) を行いました。今の2部サークル棟 (第3・4合同部室) は極めて良好な環境となっています。私が毎日掃除してますので…(笑)
Q8. 2部のサークルはどうなると思いますか。
正規課程 (2009年度入学生が卒業する年限) が終わる2012年度を以って、2部サークルへの支援も終了するという大学側の意向から、Ⅱ部サークル協議会は来年度 (2013年度) の2部サークルの方針を取りまとめておりました。各サークルからの調査票の回答を元に『平成25年度における2部サークルの方向性について』という意見案を提出しています。存続 (徐々に消滅)・廃部・合併・1部サークルへ移籍希望という様々な要望や意見を集約しています。
私自身、当初は2部生から1部生への新陳代謝のような組織変化によって、2部サークルが1部化して2部の設備や歴史を引き継いで存続してほしいという願いがありました。しかしそれは無理であると分かりました。
今は、存続したいのなら存続できる可能性を見出し、廃部する場合には無理のない負担の中で荷物整理を行える機会を作り、1部サークルとして活躍したいサークルは、そうした希望を叶えて送り出してあげたいと考えています。それがⅡ部サークル協議会の最後の仕事であると思っています。
私は2部写真部に所属しているのですが、部員がいなくなるので廃部となります。備品もちゃんと処分しなければならないので、お金を出して捨てる予定です。要望があればお譲りしてもいいのですが、そういったつながりがないので。
懸念しているのは、一旦外に置いた日用品や機材を勝手に持っていったり、勝手に何かを捨てられていたりすることです。処分の予算が狂うし、言ってくれれば譲るので、勝手に持っていくのはやめてもらいたいです。処分するといっても、あくまで2部の学生が購入した備品であり、「棚からぼた餅」のように考えての粗雑な扱いは許しがたいものがあります。
Q9. 1部生へのメッセージをお願いします。
こんにち私が、まがりなりにも市大2部生としてやれてこられたのも、2部学生だけでなく1部生や先生方など様々な方々によくしてもらったことが大きかったと思います。私は一度社会に出てから入学していますので現役の一般学生とは年齢差がありますが、本当に親切にしてもらったと思います。無論、嫌なこともありましたし、社会人として許せない事もありました。それらを相殺しても、今、この私があることを考えると感謝に堪えません。
2部は1部と違うという論理は、単なる棲み分け論であり、決定的差異はありません。そうしたことから、私は1部生も興味や関心があるのなら、遠慮なく2部生や2部サークルに関わってほしいと思います。特に今後の2部サークルの処遇については、悩ましい現実があることを申しました。そうしたことも1部サークルとの協議や個別の相談ができれば、難なくクリアできることも多くあると考えます。
第2部課程は消滅してしまいますが、かつて市大には異質で特殊なようで、ただの普通の一般学生であった2部学生が存在していたという事実は忘れないでほしいと願っています。
参考資料
『学部第2部募集停止に関する説明会の内容について』
http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2009/441
http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2009/files/20090616-1.pdf『大阪市立大学二部廃止問題を考える会』
http://osakaitidai.blog36.fc2.com/『消えゆく夜間大学 5年前から3分の1に激減』
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=ynuhah1dGe0『大学の夜間通学について』
http://homepage3.nifty.com/nitta/yakandaigaku.html『社会人のための大学・短大入学の広場』
http://www.ric.hi-ho.ne.jp/hiroba/index.html『2005 (平成17) 年4月より大阪市立大学文学部第二部が変わりました。』
http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/lit/2bu/文責
松本裕行 (経4)
大阪市立大学 Ⅱ部サークル協議会 協議長
※「Ⅱ部サークル協議会」は正式名称であり、表記間違いではありません。
From Editor
2部の廃止に伴い、得難い多様性が大阪市立大学から失われることになる。個性溢れる2部生のことなので一概には言えないが、彼らの多くが1部生とは違った事情を抱えて通学していたように思う。今回取材を快諾して頂いた松本さんは、社会人をしながら通学し、学内でも活発に活動されてきた。穏やかな印象を与えつつも自らの意見をしっかりと語る姿は、多くの1部生にはない大人の雰囲気を感じさせた。
1部生が2部生から学ぶべきことは多くあると思う。今まで省みなかったから気付かなかったが、実際に社会を経験している「人生の先輩」が身近にいるこの環境は、実は意外と恵まれていたのではなかろうか。
残る時間はあとわずか。サークルつながりでも、ゼミつながりでも構わない。去りゆく2部生と残る1部生との間で、何らかの良いつながりができたなら幸いに思う。
監修
新舎洸司 (Hijicho)
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