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生活保護 冷静な議論を


真の問題から目を背けるな

木下秀雄・大阪市立大学教授 (社会保障法) の話
(聞き手:近藤龍志 (Hijicho) )

―今回の河本氏の件についてどのように考えますか。
生活保護受給は個人のプライベートな部分なので、このことについて個人名が出るのはどこかで地方公務員法上の守秘義務違反があったということです。そのことを利用して国会議員が個人名を出すなど論外です。

生活保護の受給者が増えていることが問題であるかのように言われていますが、本当の問題は貧困が拡大していることです。生活保護受給者の数を減らすことは簡単です。受給要件を非常に厳しくすれば良い。しかしそれで社会が良くなるのでしょうか。河本氏の母親の件はそもそも不正受給ではありません。片山議員は「不正受給だ」と勝手に言ってますが、彼女は不正受給である証明を何一つしていません。真の問題をごまかすためのキャンペーンとしか思えません。

―小宮山大臣が扶養義務を徹底させると言及しました。
扶養については人間関係が複雑に絡み合っています。扶養義務を徹底させる制度を作ってしまうと、現実に保護が受けられなくて餓死してしまう人が続発するでしょう。また、扶養の履行には時間がかかります。1ヶ月後に振り込みますと言っても、現に生きるか死ぬかの人には意味がありません。先進諸外国では、生活保護の受給の要件として扶養を定めている国はありません。仮に受給の要件に扶養を定めれば、世界の笑い者になります。

窓口も困ることになります。扶養義務が要件となれば、家族関係を全て洗い出し、連絡を取り、話し合いをして、扶養を決定した上で、履行させなければなりません。

人間関係は複雑です。小さい頃に親に捨てられて、育ててもらった記憶などないのに数十年後に、子どもだからという理由で親を扶養してください、と言われるなどの事例は今までもいくらでもありました。

―今後の生活保護はどうあるべきですか。
生活保護は最低賃金との整合性も言われていますが、日本の最低賃金は欧州と比べれば低すぎます。現在の最低賃金では、1人の収入で子どもを養えません。子どもを養えないような賃金しか出していないのが最低賃金だという話です。最低賃金を時給1,000円にすればクリアできますが、せめてそれぐらい出さないと子どもを養えません。

生きるか死ぬかという状態にならなければ保護しないとなれば、社会は潰れます。立ち直れないような人ばかりが集まり、逆にコストがかかります。倒れて初めて保護するというようなことになれば、医療費や入院費もかかります。むしろ早期の対策が求められます。早期の対策をすれば、現在のような3兆円という額では済まないでしょうが、長期的に見ればそちらの方がはるかにコストは安いのです。就労支援などの中間的な施策の拡充も必要です。

また、ケースワーカー(※)も増やさなければなりません。現在は非公務員の嘱託が直接現場の対応をしているということが多くなっています。しかし彼らは公務員ではないので決定権はありません。決定権限がない人が現場対応をしているというのが現状です。私は現在の倍ぐらいにケースワーカーを増やすべきだと考えています。

※ケースワーカー…福祉事務所で働く職員の総称。一般的に生活保護を受けている人に対して様々な働きかけをする職員を指す。ソーシャルワーカーとも呼ばれる。

法律の文言上の問題で言えば、現在は「保護を受けることができる」という規定ですが、私は「保護を受ける権利がある」とするべきだと思います。権利性を明確にすれば、「受給するのが恥ずかしい」と思う人も今よりは少なくなるでしょう。そうすれば、今まで隠れていたものが顕在化して、生活できない人が210万人どころではないということがわかります。そうなってから初めて今後どうするかという議論ができるのです。日本の社会保障全体のあり方を議論するためにも、生活保護を受給することは権利であると明記する必要があると思います。

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コメント

    • 匿名
    • 2013年 1月 29日

    私も水際作戦に合いました。
    そして、子どもにお米を食べさせるため「売り」をしました。

    姉からは生活保護を受けるなんて絶対に許さないと言われました。

    通帳の残高5万円
    離婚が成立しないから、母子手当もない。

    明確なDVでもないから、シェルターにも入れてもらえない。

    三人の子どもがいるから、次の学費が落ちたら何にもない。

    それでも生活保護はおりない。

    今は働きまくって生活してますが。
    鬱による大きな傷は日常を脅かします。

    二度とあんな思いはしたくないし、
    他の人にもしてほしくないです。

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