演劇『ショッパーズ・ハイ!』が11月16日から18日の3日間、田中記念館ホールで上演された。脚本を書いた商学部の本多哲夫教授に、物語に込めた思いや商店街の実情についてお話を伺った。
リハーサルの様子=本多哲夫教授提供
——物語の中では大型商業施設が商店街の近くに移転してきますが、これはよくあることですか。
商店街の近くに大型商業施設が移転してくることは一般的に商店街の存続の危機だと考えられています。しかし、この物語にもあるように大型商業施設を訪れる人が商店街にも足を運ぶようになり、商店街の店の売り上げが増加するケースがあります。大型商業施設が来ることに対して反対運動が起こっていたのは昔の話であり、現在は商店街と大型商業施設が共存共栄している場合が多いです。大型商業施設がすぐ近くにやって来ることが商店街の存続の危機だというイメージを払拭するため、このようなシーンを物語の中に描きました。
——大型商業施設の戦略について教えてください。
この物語の中で、大型商業施設が商店街の近くに移転してすぐに撤退するという「スクラップ・アンド・ビルド戦略」をとる場面がありますが、物語で描かれているほど短期間で撤退することはあまりありません。
しかし、収益がそれほど上がらないことがわかっていながら同じブランド店を複数出店し、その地域の商圏を独占的に支配する「ドミナント戦略」はよく行われています。他の企業に顧客を取られるくらいなら、収益がそれほど上がらなくても顧客を囲っておこうという考えです。コンビニでよく見られる戦略です。
——実際の商店街で問題になっていることは何ですか。
店主の高齢化が主な問題ではないでしょうか。この物語では商店街の理事長が40代ですが、実際は70代の理事長がほとんどで60代でも若手です。店主の高齢化は廃業の増加につながり、商店街の衰退を招く可能性があります。商店街の活気が失われると、人々のコミュニケーションやつながりが生まれなくなります。犯罪や災害が起こったときに地域住民が助け合えるようにするには、コミュニケーションやつながりはとても大事です。
——商店街のお店は採算が取れているのですか。
意外と採算が取れています。土地や不動産が自分の資産になっているケースでは、家賃を払わなくても商品が少しでも売れたら儲けになります。また、高齢で店を経営している方には年金収入があります。お金の面に関しては、確かに厳しい面があることも事実ですが、世間のイメージほどどうしようもなく困っていることはないのではないかと思います。
——この物語を通して伝えたかったことは何ですか。
一つ目は、商店街が商品を買うだけの場所ではなく、地域住民の助け合いが生まれる場所でもあるということです。また、お店を営むことが高齢者の生きがいとなっている場合もあります。商店街が持つ経済的な効果だけではなく、社会的な側面も知ってもらいたいですね。
二つ目は、大規模な商業施設などはどうしてもビジネスのことを一番に考えてしまいがちになりますが、商店街には町の人々や暮らしに寄り添おうとする人が多いということです。お祭りや様々なイベントで地域を盛り上げようと奮闘する人もいます。そういう商店街の姿を伝えたいと思いました。
三つ目は、商店街と大型店の共存についてです。商店街と大型店が敵対するだけではなく、共存するために商店街も努力をしているということを伝えたいと思いました。
——次回作の構想はありますか。
知り合いの電器屋さんについての物語を書きたいと思っています。私が題材にしようとしている大阪の電器屋さんは、何度か取材させていただいた実際にあるお店で、周辺に大手家電量販店が台頭してくるなかで生き残りを図るために、中古家電販売に取り組んだり、エアコンに特化したサービス(取り付け、修理、洗浄など)を展開したりと変化を続けてきました。
小さな電器店が様々なイノベーションをおこなっていることに感銘を受け、次の脚本の題材にできたらと思っています。
参考記事
文責
加藤菜々子(Hijicho)
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