「残業代なんか出ないよ」「うちには有給休暇なんて無いから」。このような違法行為を公言する企業は少なくない。中には「法律は関係ない。うちにはうちのルールがある」とまで言う企業もある。しかし仮に自分に言われたとしても、対処法を知らなければ泣き寝入りするしかないのが現状だ。
「ブラック企業によろしく」。最終回の今回は「就職先がブラック企業だったら」というテーマで、実際にブラック企業から身を守る方法を見ていきたい。
なお、アルバイトといえども労働者なので、卒業後の就職先だけでなくアルバイト先でも同様の対処ができる部分もあるので、参考にしてほしい。
試用期間
入社後に「選別」
株式会社ウェザーニューズでは、2008年に入社後6ヶ月の新入社員が自殺するという事件が起きた。この会社では、新入社員に「予選」と称して厳しいノルマを課していた。この社員は上司から「天気は眠らない」などと言われて月に200時間以上の残業をさせられることもあったという。そのあげく「予選落ち」を告げられたため自ら命を絶った。
この事例は象徴的なケースではあるが、入社後にも選別をする企業は少なからずある。この時、企業側が使う言葉が「試用期間」だ。「試用期間が終われば本採用します」と言って、試用期間=お試し期間として労働者の適性を見極める期間だとしている。
「明日から来なくていい」
では、試用期間の後に「本採用はしない」「明日から来なくていい」などと言われたら辞めなければならないのだろうか。
労働基準法では、解雇をするためには、30日以上前に解雇することを予告しなければならないとされている。また、30日前に予告ができなければ、不足分の賃金を支払わなければならない (20日前の予告であれば10日分の賃金)。したがって「明日から来なくていい」と言うためには少なくとも30日分以上の賃金を支払わなくてはならない。さらに、その場合でも労働者によほどの落ち度があるか、企業の経営によほどの困難があるといった理由が必要だ。
また、試用期間の時点で法的には雇用契約が成立しているので、試用期間といえども辞めさせれば「解雇」にあたる。したがって、使用期間中でも辞めさせるためには、上のような理由が必要となる。ちなみに、内定者にもこのルールは準用されるので、「内定取り消し」にも上のような理由が必要となる。
「わかりました」とは言わない
しかし、「解雇」はあくまで企業が労働者を一方的に辞めさせるものであり、労働者が合意して辞める場合は「合意退職」とみなされ、上のルールは適用されない。したがって「もう来なくていい」などと言われた場合に「わかりました」と応えてしまえば、双方が合意の上で辞めたとみなされてしまう。企業側から「解雇」という言葉が出ない限り、後になって企業側から「あれは退職を推奨しただけです」と言われることもある。そうなれば雇用保険が受けられないなどの不利益を被る可能性がある。
「もう来なくていい」などと言われた場合、まずは「解雇ですか?」と聞こう。もしくは「考えさせてください」といってしばらく考える時間をもらおう。また、「もう来なくていい」などと言われても、せめて次の日だけでも出社しよう。そうすることで働き続ける意思があることを示すことになる。
有給休暇
年次有給休暇 (有給休暇) が発生する要件は次の2つだ。①入社してから6ヶ月以上継続勤務していること、②労働日の8割以上出勤していること。以上の要件を満たせば、入社してから6ヶ月経過した時点で10日の有給休暇の取得権が発生する。またその後は、1年経過するごとに有給休暇の付与日数は加算されていく。なお、「アルバイトには有給は無いから」と言う企業もあるが、アルバイトやパートでも有給休暇は取得できる。(付与される日数には違いがあることもある。)
勤務日数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
有給休暇日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
サービス残業
残業代については第1回にも書いたが、ここで改めて確認しておきたい。労働基準法では、1日8時間を超えて働かせてはならないとされているが、一定の条件を満たせば8時間を超えて働かせることができる。ただしその際は、賃金の25%以上を上乗せした賃金を支払わなければならない。また、22:00〜翌日5:00の深夜の時間帯に働かせても25%以上、休日 (法定休日) に働かせた場合は35%以上割増した賃金を支払わなければならない。(なお、一月の残業時間が60時間を超えればさらなる割増賃金が発生する。)
労働時間帯 | 割増率 |
時間外労働 (実働8時間超) |
25%以上 |
深夜労働 (22:00〜翌5:00) |
25%以上 |
休日労働 | 35%以上 (8時間を超えても加算はなし) |
休日+深夜 | 60%以上 |
記録を残そう、メモ・日記
とはいえ、実際に残業代を支払ってもらうためには、その時間帯に働いていたという証明が必要になるかも知れない。一般的なのはタイムカードだが、実際にはタイムカードを押した後にも仕事をさせられるケースがある。
その場合でも、パソコンでのメールやログイン・ログオフの記録であったり、メモを取ったりしておけば証拠として認められることもある。日記はその日の天気などを書いておけば信憑性が高まるので有効な手段だろう。
名ばかり管理職
また、残業代と密接に関わっているのが「管理職」だ。労働基準法では「管理監督者」には残業代を払わなくてもよいとされているが、これを企業が悪用して残業代を払わないケースが続出している。しかし、管理職と管理監督者は全くの別物である。
日本マクドナルドでは、以前までは支店長は管理職であるとして残業代を支払わなかった。これを不服として、ある支店長が時間外・休日労働分の割増賃金の支払いを求めて提訴した「日本マクドナルド事件」では、管理監督者に該当するか否かの判断基準を示した上で、支店長は管理監督者ではないとしている。
判断基準 | 説明 |
①勤務態様・労働時間管理の現況 | 自らの労働時間を自由に決定できるか否か。日本マクドナルド事件では、長時間労働を強いられている点が重視されるなど、形式的にではなく実質的に判断される。 |
②職務内容・権限・責任等 | 経営者と一体的な立場で企業全体の経営には関与しているか。アルバイトの採用権限などだけでは経営に関与しているとは言えない。 |
③待遇 | 一般労働者と比べて、管理監督者に相応しい待遇を受けているか。賃金以外の労働条件も考慮される。 |
「働き過ぎ」の基準
第1回で既述したが、働き過ぎると場合によっては死に至ることもある。厚生労働省の過労死の労災認定基準によると、発症前の1ヶ月間に100時間以上、または2ヶ月ないし6ヶ月のいずれかで80時間以上の残業をしていれば、業務と症状の関連性が強いとされている。したがって「毎月80時間以上の残業」を目安に考えていいだろう。なお、毎月80時間以上の残業とは、週休2日なら毎日12時間以上、週休1日なら毎日10時間以上の仕事をしていれば該当する。
(参照、厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html))
パワハラ
厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が2012年1月30日に、パワハラの定義を提案した。それによると「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」とされている。
ここでのポイントは①「職場内の優位性を背景に」行う言動のこと、②「業務の適正な範囲」を超えていることだ。①に関しては、単に上司から部下への言動に限らず、例えばパソコンが得意な若手社員からパソコンが不得意な年配の上司への嫌がらせもパワハラにあたる。②に関しては、ミスをした時に「お前なんかいなくても同じだ」などと怒鳴るだけではパワハラにあたる。というのも、業務上の改善を目的とするなら、具体的にどのような点が問題なのかを指摘しなければ意味がないからである。
記録を残そう、ICレコーダー
パワハラでも重要なのが記録を残すことだ。メモや日記に何を言われたか、何をされたかを記録しておこう。また、ICレコーダーで録音しておくのも有効だ。パワハラの立証にはICレコーダーの録音記録の価値が極めて高い。相手に無断で録音を録ることは憚られるかも知れないが、労働問題に詳しい笹山尚人弁護士は著書で、ICレコーダーで録音を録ることは法的にも問題ないとしている。(参照、笹山尚人著『それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか』)
日記を書こう
記録を残すために継続的に出来る簡単な方法としては日記がいいだろう。その日の天気や出退勤時間、仕事内容などを記録しておこう。何か言われたりされたりした場合は、そのことも記録し、その時に何を感じたかも書いておくのが望ましい。文章にせずとも箇条書きで十分だ。
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始めまして。
私は2年前になるんですけど、毎月80〜100時間に、及ぶ残業。そして、上司によるパワハラにより、うつ病と診断されました。
会社側もパワハラを認めました。
私の部署は数年前に現場で首吊り自殺があり、私は当時と同じ環境下の中で仕事をしていました。
しかし、傷病手当の申請を行う際に、
傷病を受ける理由で、個人によるものか、第三者によるものか?と言う問いに、人事に質問したところ、第三者にすると労災扱いになり、なかなか申請が通らず、時間もお金もかかるので、個人にして欲しい。と・・・
お金が入らないのは生活に支障がでるので、個人にマルをしたんです。
その後、半年間休職しましたが、復帰しても1年後には自殺未遂をし、会社から入院を勧められ、二ヶ月入院し、現在はまた復帰しています。
通院と薬と残業で、また身体がボロボロです。
労働局に相談してもダメでした。
はじめまして。私たちは一人でも誰でも加入できる労働組合、全国一般労働組合東京南部と言います。私たちの支部にウェザーニューズ労働組合があります。このページにも載っている同僚の過労自殺をきっかけに組合をつくりました。二度と過労自殺を出さない、日本人も外国人も安心して働ける職場にしようという労働組合に対し、ウェザーニューズは組合の委員長を解雇し、書記長に大幅な減給、組合員の隔離就労など、悪質な組合つぶしをしています。http://nugwnambu.org/?page_id=433
私たち労働組合の目的は雇用保障と職場改善です。「天気は24時間眠らない」から「私たちも眠らない」などと言い、従業員に超長時間労働を強いる会社で、声を上げることはとても大変ですが、組合は解雇裁判を闘いながら、会社の組合つぶしの不当労働行為を労働委員会に訴えて闘っています。
みなさんのこのページがとてもよくまとまっているので、私たちのサイトにもリンクを貼らせてください。
ブラック企業に入ってしまったら、あきらめずに、労働組合で闘ってほしいです。