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特集連載 ◇ ブラック企業によろしく (第1回) 〜ブラック企業問題とは〜


「残業代を払わない」「異常な長時間労働をさせる」こうした違法行為を行う、いわゆる「ブラック企業」が近年問題となっている。大阪市立大学の学生も将来は企業に就職する人がほとんどだろう。就職活動を間近に控えている学生にとっては、ブラック企業には就職したくないだろうし、内定が決まっている学生にしてみれば、自分の就職先がブラック企業でないという保証はない。

このように、市大生にとっても無関係でないブラック企業について、Hijichoでは全3回にわたって「ブラック企業問題とは」「就活におけるブラック企業」「就職先がブラック企業だったら」というテーマで記事を書いていきたいと思う。

第1回目の今回は「ブラック企業問題とは」というテーマで、ブラック企業問題の概要を見ていきたい。

ブラック企業問題

ブラック企業問題は正社員の問題
ひとたび非正社員になれば正社員になるのは難しく、待っているのは低い賃金と不安定な生活。社会保障も脆弱で、子どもの頃から「フリーターになると大変」「非正社員と正社員だと生涯収入にこれだけ差が出る」と教え込まれれば、多くの人は正社員を目指すだろう。しかし「正社員で入社すれば安心」という時代ではない。このことは多くの学生が考えているのではないだろうか。正社員の過労死 (および過労自殺) やうつ病をニュースなどで目にすることが多くなっているが、そのような状況で安心しろという方が無理があるだろう。ブラック企業の犠牲になると、うつ病や過労死などで人格や人生が破壊される。そしてこのようなブラック企業問題は、非正社員にも起こりうるが、本質は主に正社員の問題なのである。

なぜ正社員におこるのか
ブラック企業の特徴としては、異常 (≒違法) とも思える業務命令だ。ブラック企業の従業員は異常な長時間労働や残業命令にも従わざるを得ない。本来なら違法と思われる業務命令には従う必要は無いが、現状では従わざるを得ない。ではなぜ異常な業務命令が可能となっているのだろうか。

戦後の日本では終身雇用が一般的な雇用形態であった。一度就職すると定年までその会社で働くといったもので、(建前上は) 滅多なことでは解雇 (クビ) にはできなかった。その代わりに企業には、広範な業務命令権が認められていた。簡単に言うと「クビにはしない代わりに単身赴任とか残業とかには応じてね」ということだ。

ところが現在は、この終身雇用という前提が崩れつつある。手厚い企業福祉が望めなくなり、もはや一つの企業が労働者の面倒を一生見ることは出来なくなった。しかし一方で広範な業務命令権は残っている。「クビにはしない」という前提がないにも関わらず「残業には応じてね」という状態だ。労働者も心のどこかで「逆らえばクビにされる」と思ってしまっている。言い換えれば「逆らわなければひとまずクビにはされない」と思っているということだ (実際には逆らわなくてもクビにするところはクビにするが)。

かつては「クビにしない」という前提があったからこそ異常な命令も「異常」とは感じずに応えられたが、「クビにはしない」という前提が崩れたにも関わらず昔と同じような異常な命令をされ、なおかつそれに従わざるを得ない現在では、それが「ブラック企業」問題として現れることになる。

いわばブラック企業は、雇用確保の幻想の上に成り立っていると言え、それゆえブラック企業問題とは概して正社員の問題なのだ。

サービス残業・過労死

労働者の二大権利

ある20歳の女性縫製工が、26時間半連続で休まずに働かされ命を落とした。新聞はこれを「純然たる働かされ過ぎによる死」という見出しで報道した。

これは19世紀のイギリスでの出来事であるが、現在の日本の出来事と言われても不思議ではない状況だ。もしかしたら読者の中には日本の出来事と思われた方もいるかも知れない。労働基準法 (労基法) をはじめとする労働法は、このような状況をなくすために労働者の権利確保を目的に作られた。

労働者の権利として最も重要なのが「時間」と「カネ」だ。すなわち、「時間」とは労働者の労働時間の規制および労働者の自由な (労働時間以外の) 時間の確保であり、「カネ」とは適正な賃金の確保である。これら2つが守られないと、労働者の権利が確保されているとは言い難い。

労働者の時間に関する権利が守られていなければ、異常な長時間労働で上の女性縫製工のように過労死してしまうだろうし、カネに関する権利が守られていなければ、いくら働いても満足な生活費を得られない「ワーキングプア (働く貧困層)」の出来上がりだ。

しかし現在でも、人材派遣会社社長の奥谷禮子氏が「過労死は自己管理の問題。祝日もなくすべき。24時間365日自主的に管理する方がいい」と主張するなどしており、さながら19世紀のイギリスに戻そうとしているかの様だ。(この奥谷氏の発言はさすがに国民から猛反発を浴びたが。)

サービス残業
労基法は、一般的な労働者の労働時間を1日8時間までに規制しているが、一定の条件を満たせば8時間を越えて働かせることができる。ただしその際は労働者に対し、賃金の25%以上の割増賃金を支払わなければならない。サービス残業とは、その割増賃金を支払わずに残業をさせることであり、労働者は割増賃金分を「ただ働き」させられることになる。サービス残業は労働者の「時間」と「カネ」を奪う行為だ。

サービス残業に関しては、数年前にいわゆる「名ばかり管理職」が問題となった。労働基準法によると管理監督の地位にある者は残業代の適用が除外される。これを企業が悪用して、多くの労働者を「管理職」にして、残業代の支払いを免れようとした。ところがマクドナルドの支店長が訴訟を起こし、最終的に、店長は管理監督の地位にはあたらないと判断された。「管理職=管理監督の地位」というわけではないということだ。市大生の中にも将来は管理職の地位に就く人が多いだろうが、残業代の支払いには注意した方がいいだろう。

サービス残業

写真=名ばかり管理職の報道をするニュース
7:45に出勤して翌日の7:24に退勤し、同じ日の8:55に再び出勤している

過労死
「ブラック企業」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「過労死」ではないだろうか。2008年6月には、同年4月に株式会社ワタミに入社した新入社員が入社してわずか2ヶ月で過労が原因で自殺しており、また同じく2008年10月には、同年4月に株式会社ウェザーニュースに入社した新入社員が入社6ヶ月で過労自殺した。

これらはいずれも長時間労働が原因となり自殺した事例だ。また、業界で言えばIT業界のシステム・エンジニア (SE) には近年理系学生の就労機会が増えているが、「デスマーチ」という言葉で表現される、納期に間に合わせるための過酷な長時間労働が常態化している企業もある。

過労死は、このような過酷な長時間労働が原因で脳や心臓の疾患で亡くなってしまうことである。どの程度の労働時間で「長時間労働が原因」で死亡したと言えるかについては、厚生労働省の基準によると、「発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」としている。過労自殺も広義の過労死と言え、同じく過酷な長時間労働で精神疾患などになり、正常な判断ができなくなり自殺してしまう。過労自殺を巡っては「死ぬぐらいなら辞職すればいい」という言い方もされるが、そもそも正常な判断ができなくなっているのであまり意味の無い言葉だろう。

過労死

写真=過労死について報道する新聞

このような違法行為を行う「ブラック企業」は大企業でもあり得る。ブラック企業の犠牲にならないためには「大企業=優良企業」ではないということを頭に入れておく必要がある。

ブラック企業の犠牲になると、うつ病などの精神疾患を発症して長期の療養などで職場復帰が遅くなったり、キャリア形成が困難になったり、最悪の場合は死んだりしてしまう。そのような事態にならないためにも、就職活動段階でしっかりと企業を見極める必要がある。また、不運にして就職先がブラック企業であったならば、自らの身を守る手段を身につけておかなければならない。次回では「就活におけるブラック企業」というテーマでブラック企業から身を守る手段を探って行きたい。

(続く)

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ブラック企業によろしく (第2回) 〜就活におけるブラック企業〜 (http://hijicho.com/?p=9400)
ブラック企業によろしく (第3回) 〜就職先がブラック企業だったら〜 (http://hijicho.com/?p=9453)

文責

近藤龍志 (Hijicho)


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