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教授が語る夢 第15回 文学部 菅原真弓教授


 本学のさまざまな教授にインタビューを行い、それぞれの夢や思想を伺うことで教授自身のことを追及していくこのコーナー。第15回は文学部の菅原真弓教授にお話を伺った。菅原教授は著作の「月岡芳年伝 幕末明治のはざまに」において、2019年3月に芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞している

菅原真弓教授=9月5日、橋本崇俊撮影

 

 ——菅原先生が研究されていることについて教えてください。

 私は日本美術史を研究しています。日本で作られた美術品を時代の中に位置づける研究です。たとえば、古くは埴輪など原始の造形、またお寺にある仏像、平安時代に作られた絵巻物、お城などの屋敷の建具として制作された襖絵(ふすまえ)、屏風、掛軸など。それらが作られた手法はどのようなもので、どういう造形上の特徴を持っているのか、前の時代の制作様式をどのように踏襲しているのか、あるいは新たに創始した手法なのか、などを調べます。

 西洋も日本も、宗教の具として造形が用いられることは一緒ですが、中世から近世以降の日本の美術品の多くは日常生活で用いる道具であったことが特徴です。例えば新調した襖(ふすま)に描かれる絵や床の間の掛軸、あるいは間仕切りとして用いられた屏風など。江戸時代以前の、例えば将軍家や大名家には、西洋の宮廷画家(ベラスケスなどが想起されますね)と同じように、専属のお抱え絵師たちがおり、屋敷内の襖や屏風の新調などを担っていました。また姫君のお嫁入りに関しては、屏風を制作したり、飾り棚などの家具、文箱や硯箱などの絵付けも担当しました。一方で江戸時代以降は、権力者たちが美術を求め楽しむだけでなく、広く一般の層にも楽しまれるようになっていきます。京の町衆に象徴されるような富裕層たちは、町絵師といわれる絵師たちに作品を発注し、また印刷文化の発展に伴い、17世紀後半以降は木版で制作した実用書や小説本(版本)、同じく木版画(浮世絵版画)が店先(絵双紙屋と言われます)で販売され、不特定多数の享受者たちに楽しまれていくことになります。

 

 ——日本美術史の研究に携わるきっかけは何ですか。

 私が通っていた大学には、美術史学を学べる学科がありました(文学部哲学科)。元々歴史が好きだったことも影響し、美術を通した歴史を学ぶことが面白そうだと思ったのです。専門が浮世絵になったのは、学部2年生の時に初めて受けた「美術史講義」のテーマが風俗画だったから。安直で短絡的です(笑)。講義を担当した先生(恩師である小林忠先生。現在は岡田美術館館長、『国華』主幹、国際浮世絵学会会長)の話を好きになったというのが、一番大きなきっかけです。研究者になろうともなれるとも思っていなかったのですが、恩師の導きによって、なぜだか研究者になって「しまい」ました。初めて教えを受けてからもう30年以上になりますが、いまだに先生の前では緊張します。

 ちなみに私の専門は幕末から明治期の浮世絵版画です。それは、NHK大河ドラマの「花神」(1977年)を観て司馬遼太郎作品に「ハマった」ことが契機でした。それ以来、幕末から明治にかけての動乱期に興味をもったからです。

 

 ——菅原先生の著作「月岡芳年伝 幕末明治のはざまに」についてお聞きしたいです。

 月岡芳年は江戸末期から明治にかけて活動した浮世絵師です。芳年は一部の作品のグロテスクさ、エキセントリックな側面が一時期よく喧伝(けんでん)されたため、時代背景も相まって偏った特殊な見方をされていました。この本は芳年の作品群や生い立ちに関する資料を集め、彼の評価と人生、画業を詳細に追って一冊の本にまとめたものです。芳年の印象が血みどろ絵だけではないことが伝われば幸いです。

 

 ——菅原先生が市大で教授になられた理由はなんですか。

 市大の学問に対する姿勢に共感したからです。近年ではいわゆる実学重視の意見が強く文学部の存在意義が問われるようになりました。大学によっては文学部がないところもあります。本来学問を役に立つかどうかでふるい分けするのは良くないと思いますが、学ぶ内容よりも就職活動に有利かどうかを重視する時代になりましたからね。そんな中、大阪市立大学は時代の流れに逆行するように文学部の改組を行い、今年度、文化構想学科を設立しました。面白いですよね(笑)。正に「文学部の逆襲」(市大文学部が2016年に実施したイベントの名称)です。また、文化構想学科には文化資源コースというものが作られましたが、「文化資源学」という新しい学問の思想に、明るい未来を感じました。すべてのものは文化資源としてそれぞれ違った価値があり、美醜などの人間本位の見方だけで価値判断をすべきではない、と文化資源学は説きます。道端にある石仏や牛乳瓶のふた、絵はがきや観光ガイドブックなどはすべて「文化資源」として研究題材になり得るものです。そして研究を行うことでそれらは捨てられずに保存されます。後世の研究者のために残しておくことが、文化資源学、そして私の専門である美術史においてはとても重要なのです。

 

 ——菅原先生の夢はなんですか。

 現在、先ほどの芳年の本と同じ出版社さんから刊行するため、明治時代の浮世絵師の列伝を執筆しています。今まで評価されていなかったり、顧みられていなかったりする絵師たちを中心に研究していきます。「浮世絵師 歌川列伝」というとても古くからある歌川派の研究資料が、今もなお先行研究として後の歌川派の研究者の役に立っているように、私も後世の研究者の方々の道しるべになるような活動をしたいと思います。そのためにまだ研究が進んでいない絵師たちの資料をこの活動を通して保存していきます。

 

 ——市大生に向けて何かコメントをお願いします。

 私が好きな言葉に愚直という言葉があるのですが、学生さんたちには「愚直であれ」と申し上げたいです。要領よく物事を進められる人が先頭を歩いていきますが、皆さんは自分なりの速度で一歩一歩できることを積み上げて、経験値を貯めて成長できる人であってほしいと思います。社会に出たとき、要領の良さだけで生きてきた人は自分よりさらに要領の良い人と対峙した時に困るでしょう。頼りになるのは作業速度ではなく経験値量です。そして自分がやってきたことを見てくれる人が必ずいます。今は成果が出なくとも無駄だと思っていたことに救われるときが来ます。頑張ってくださいね!応援しています。

 

芸術選奨文部科学大臣新人賞の掲載URLはこちら

菅原教授のプロフィールはこちら

 

文責

橋本崇俊(Hijicho)


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