「きみはこれからなにをする?」は、大阪市立大学を卒業したOB・OGが現在どんな人生を歩んでいるのか、どんな志を持って生きているのかを紹介していくコーナーです。
古都の路地裏に一風変わった店がある。
居酒屋「のぶ」
これは、一軒の居酒屋を巡る、小さな物語である。
(異世界居酒屋「のぶ」より)
第3回はライトノベル作家の蝉川夏哉さん (2006年、文学部卒) 。
蝉川さんの著作、『異世界居酒屋「のぶ」』 (宝島社) は第2回エリュシオンライトノベルコンテストで入賞しました。今後の著作にも注目が集まる蝉川さんに寄稿してもらいました。
写真=『異世界居酒屋「のぶ」』は生協書籍部にも並ぶ (丹下撮影)
― 現在のご職業 (ライトノベル作家) について教えてください。
ライトノベル作家とは夢を売る商売です。皆さんご存知の通り、世の中には嘘を吐く職業が三つあります。
すなはち、政治家、詐欺師、作家の三つです。この中で儲かるのは詐欺師と政治家ですが、逮捕されないのは政治家と作家です。政治家になるには選挙に勝たねばなりませんが、作家になるにはアイデアとパソコンと根気があれば何とかなります。
惜しむらくは、作家が嘘を吐けるのは作品の中だけだということですが、ここはまぁ折り合いを付けて下さい。
作家の区分にはいろいろありますが、代表的なものに専業作家と兼業作家というものがあります。これは読んで字の如く、作家だけで食っているか、他に仕事を持っているか、ということになります。この辺りの定義も甚だ曖昧なので、おおよその目安程度に考えて下さい。
兼業作家の場合、定職の収入と印税を合わせた額になりますから、生活は比較的安定しています。私の友人の作家は内科医と作家を兼業しているので、かなりの所得があるのではないでしょうか。
問題となるのは専業作家です。上は年収数千万から下は百万未満まで、本当にピンからキリまでいます。ライトノベル作家は夢を売る職業ですが、夢を売るのもなかなか厳しい時代になっています。私がどの辺りにいるかは、ご想像におまかせします。
― ライトノベル作家になった動機を教えてください。
書くことが好きだった、というのがもっとも大きな理由です。
物語は人生を豊かにしてくれますが、豊かさは物語を読むことだけでなく、紡ぐことによってももたらされます。
自分の描く物語で誰かを愉しませよう、誰かが幸せになってくれれば、という殊勝さよりも書くことが好きだという気持ちの方が大きいのは今も変わりません。
― 学生時代はどんな学生でしたか。
授業には出ておりましたが、真面目とは言い難い学生だったように思います。現在の市大生からは想像もできないかもしれませんが、当時の出席確認は大変にルーズで、期末までに出席日数の帳尻を上手く合わせたり、代返はせずともノートを取って貰ったりと悪行の限りを尽くす学生が跋扈 (ばっこ) しておりました。
私は漫画研究会に所属していたのですが、漫画を描く訳でもなく、麻雀に勤しみ、本を読み、ときどき文章を捻って暮らす学生でした。
ただ、社会に出てしまえば「知の最先端」にいる人々から無料で知見を得ることはほとんど不可能です。金銭的、時間的、社会的なコストを支払わねば研究の知識やその分野の概略など、教えて貰うことはできません。学生時代にもっと勉強しておけば、と当時の自分に説教してやりたいと思うことがしばしばあります。
― おすすめの作品を教えてください。
その時代時代によって読むべき作品というのは大きく変遷をしていくので、敢えてここで私が何かをお勧めすることに意義があるとは思い難いのですが、とりあえず学生時代に数を読んでおいた方が良いと思います。社会人になってから読書時間を捻出することは困難です。
また、一ヶ月に何冊の本が読めるかというのは読書の体力に応じて変わって来るものです。読書の体力は学生時代にどれだけ本を読んだかに比例するので、ぜひぜひ、学生生協などを利用してたくさんの本を読んでください。
ちなみに市大生協図書部では私の『異世界居酒屋「のぶ」』が好評発売中です。
― 今後の目標を教えてください。
「作家が生き残るにはどういう条件を達成すればよいか」ということについては色々言われていますが、寡作で傑作を書く人よりも、多作な人の方が生き残りやすいということがあるようです。
嘘か本当か、年間2.6冊書けば何とかなるという統計データもあるようですので、コンスタントに年3冊の本を出すことが今の目標です。
判型や出版社にもよりますが、1冊の小説は概ね10万字から15万字程度と言われています。みなさんの書く卒業論文と較べると大した文量ではないことがお分かり頂けるでしょう。これを年に3冊ですから、書くことだけであれば比較的余裕があります。ここに下調べや構想の時間が加わるとやや難しくなってきますが、それでも不可能というわけではありません。
問題となるのは「書かせて貰えるか」という一点です。
「本を出す」というのは経済活動です。作家が小説を書き、出版社がそれを本にし、取次を通じて書店が販売する。
売れなければ当然赤字ですから、出版社も慎重です。あまりに売れない本ばかり書く作家であれば、いつか見放されてしまうでしょう。作家の方で勝手に心が折れてしまうこともあります。
ですから、年間3冊。調子が良ければ4冊というペースで本を出していけるような信頼関係を出版社と維持できるだけの売上を出すことが目標、ということになるでしょうか。
― 市大生に一言お願いします。
作家というのはとても楽しいお仕事です。三日やったらやめられません。
作家というのは潰しの利かない仕事です。三日やったらやめられません。
出版不況が叫ばれて久しいですが、作家になると毎日が椅子の足りない椅子取りゲームです。常に前を見て戦い続ける毎日です。
ただ、これ以上にクリエイティブな仕事というのも中々ないというのは事実です。
先輩の作家さんに「小説はたった一人の狂気でこの世に産み出すことができる」と教わったことがあります。
アニメにせよゲームにせよ映画にせよ、形にする為には多くの人の協力と調整が必要です。漫画も大作になればアシスタントの力が必要でしょう。
作家は孤独ですが、一人の狂気を十全に作品に反映させることができます。これほど夢に満ち溢れた仕事が他にあるでしょうか。
しかし、これだけで食って行くのは今後ますます難しくなっていきます。
小説家を目指される方も、まず働いて下さい。働きながらネタを集めていると思えば良いのです。そして、デビューしても仕事は辞めないでください。
これから日本は激動の時代を迎えます。既存の価値観は維持できなくなり、否応なく自立の求められる時代となるでしょう。
「寄らば大樹の陰」という言葉は過去のものとなり、自分の知恵と才覚が生涯を左右する時代となった時、助けになるのは知恵であり、知識です。インターネットの普及に伴い、個人の知識は軽視される時代になりました。そういう時代だからこそ、本を読んでください。知らない言葉、概念はインターネットを使っても調べられないのです。
みなさんの人生が実り多きものとなることを祈っております。
蝉川夏哉
文責
丹下舜平 (Hijicho)
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