大阪市立大学と大阪府立大学が統合する時が迫っている。しかし、大学統合に関して読者の皆さんはどれほど知っているだろうか。我々は学生・教職員に質問を募り、それらを新大学設置準備室企画課長の柴山様、法人企画部広報課長代理の皆藤様にぶつけてみた。
――そもそもなぜ大学が統合することになったのでしょうか。
「2018年問題」と呼ばれる少子高齢化の大きな波に対応するためです。大学間競争が激しくなる中で勝ち残っていくためには、大学の規模というものが非常に重要になってきます。また、統合することにより複数領域をまたがる研究が強化されます。市大・府大それぞれ単独の領域では強いですが、これから社会的に求められている研究は分野が融合された研究であります。そういった研究をしていくために、2つの大学を統合し、先生方が交流することで、新たな分野に踏み出していきたいと考えています。
――少子高齢化・大学間競争の激化への対応と答えられましたが、そもそも大阪府内の国公立大学には大阪大学、大阪市立大学、大阪府立大学、大阪教育大学の4つしかなく、大阪の人口規模を考えると公立大学が少ないのではないでしょうか。その上で、市大・府大を統合することで国公立大学は3つになってしまいます。非常に少なく感じますが、どうお考えでしょうか。
大阪には、国立、公立大学だけでなく私立の大学も多くあります。それを踏まえると、これから大学の数は過剰になっていくと考えています。もちろん、学力や学びたい学問・研究によって進学先も変わりますので、国公立大学の数だけの問題ではないと思います。
――統合することのメリットは何だと考えていますか。
先程の質問の答えとほとんど被ってしましますが、やはりそれぞれの大学の特徴ある学部の研究が融合することでより素晴らしい大きな研究ができるのではないか、と期待しております。例えば、関西で唯一の府大の獣医学部と伝統ある市大の医学部が連携することで、人獣共通感染症の研究などの発展が期待されます。また、工学の分野では、市大は基礎研究が非常に強く、府大は応用研究が非常に強いという特徴を持っております。その2つが融合すれば一貫した研究体制の場を提供できるのではないかと思います。
――大学の研究分野のメリットは強く感じますし、広くアピ―ルされていますが、現役学生・受験生に対するメリットがあまり感じられません。これといったメリットは何なのでしょうか。
やはり、交流の幅広さじゃないでしょうか。現時点でも、理学部や工学部などでは先生同士の交流が進んでおり、研究においても新たな発見やアプロ―チなどを知ることができるのは、学生さんにとっても有意義なことだと考えております。また、新大学ができるまでに両大学の学生同士でどれだけ仲良くできるか、両大学の学生同士が仲良くするといった気運がこれから高まれば、より交友関係も増えると思います。「これから大学が統合していくんだね」というような話題のきっかけもありますので、そういったメリットもあります。また、大人になってからでも、共通の話題として盛り上がることができると思います。クラブ・サ―クルにつきましては、当然メリットデメリットあると思いますが、運動系サ―クルなどでは部員数が増えることでより強くなることができると思います。もちろん、強さだけがすべてではないことも承知しております。ただ、今後どこで活動するかなどの問題は当然出てくるため、それらはこれから解決していく必要があると認識しております。
――「大学統合」が大阪維新の会の目指す「大阪都構想」の象徴、つまり政治的に利用されているのではないでしょうか。
たしかに、当初はそういった政治的な背景はもちろんあっただろうと思います。しかし、それだけでは新大学をつくるなんて大事業はなしえないですね。やはり、より研究を発展させより良い大学にしていくための統合だと考えております。
――なぜ、初代学長が府立大学の学長になるなど、府立大学に吸収されるような形になってしまったのでしょうか。
これもいろいろな意見がありまして、以前、法人の理事長が西澤先生(前大阪市立大学長)になったときには、「なぜ理事長が市大側なのだ」という声もあったようです。そういった意味では、理事長が市大出身、学長が府大出身という形でバランスが取れていると思います。学長は、学長選考会議の選考に基づき理事長が任命しましたし、学長選挙で選ばれていますし、その質問は少しうがった見方になっているのではないでしょうか。
(皆藤様より補足)公立大学法人大阪のホ―ムペ―ジに学長予定者選考選挙の過程などが公表発表されていますので、そちらも参考にしていただければと思います。また、この学長候補者選挙は他薦・推薦公募で進められたのですが、選考委員には府大・市大の関係委員の他に民間の外部委員も多数おられました。新大学を運営するにあたって、結果として市大・府大の現状をよく知っていることがアドバンテ―ジとなり辰巳砂先生が選ばれたと私は類推するところです。適正かつ公正・公平な議論の結果、現府大の学長が新大学の学長予定者に選ばれたという認識をしていただけたらと思います。
――新大学ではキャンパスを分断することにより、サ―クルや一般教養科目を履修するにあたって様々な弊害が生じると予想されますが、そういったデメリットがあるにもかかわらず、森之宮に新キャンパスを建設し、基幹教育を集約する意図はなんでしょうか。
主に1年生、2年生が基幹教育を学ぶために森之宮に新キャンパスを作っているところではありますが、新大学ではキャンパスが分断されるからこそ、基幹教育だけは同じキャンパスで学んでほしいという意図がございます。そうしないと統合する意味はありませんし、将来的にも役立つ幅広い交友関係を築いてほしいと思います。たしかに、キャンパス間の移動の必要性はどこかのタイミングで生じますが、なるべく無いように、年次ごとにキャンパスが変わっていくようなカリキュラムになるよう設計しております。また、単位を落とした場合の再履修などをどのようにするかは検討中ですが、オンライン授業が幅広く浸透していますので、オンラインを活用するとか、一部の授業はそれぞれのキャンパスに集中して開講するなどの対応策を考えております。なるべく不便にならないように先生方の間で議論しているところです。
――やはりサ―クル活動について非常に気になります。年次ごとにキャンパスが変わるとなればサ―クルも当然キャンパスごとに活動していくことになると思います。1年ごとにサ―クルが変わったりするということも可能性としては考えられますし、4年間を通して一貫して同じサ―クルで活動するということが難しくなるのではないかと思いますが、サ―クル側はどういった対応をすれば良いのでしょうか。
新歓は森之宮ですることになると思います(2025年~)。また、これからサ―クルをどのように融合させていくかについては、関係者の間で議論の途上にあります。体育会を例に挙げますと、連盟にどのような形で参加するかという問題があります。また、活動拠点をどこにするのかといった問題もあります。現在、どのような形で融合するかいくつかパタ―ンを示しながら、学生さん自身で考えていただいている状況です。そういった中でそれぞれのクラブ・サ―クルにとっての良い形が生まれてくるのだろうと思います。活動に関しましては、森之宮・杉本・中百舌鳥と1時間もかかりませんので、ある程度時間のロスは発生してしましますが、そこはそれぞれのクラブ・サ―クルで良い形を検討いただけたらと思います。大学としてできる限りサポートいたします。
――羽曳野キャンパスが潰される予定だと思いますが、なぜ羽曳野キャンパスが潰されるのでしょうか。
現在、羽曳野キャンパスは府大の看護・リハビリの専用キャンパスとなっておりますが、看護は阿倍野キャンパスに集約しようということになっております。そうなると、リハビリだけ羽曳野キャンパスに残すのかという問題が生じます。少人数キャンパスは、大学運営の面でも非効率ですし、学生向けサ―ビスも荒くなってしまうため、リハビリは森之宮キャンパスに移します。
――羽曳野キャンパス跡地は、今後どのように利用されるかなど、決まっているのでしょうか。
未定ですが、出資団体の大阪府へ返還すると思います。
緑豊かなキャンパス=2020年7月3日片山翔太撮影
――両校の広大なキャンパスは、大阪における生物多様性を守る大切な緑地ですが、維持する方針ですか。
中百舌鳥キャンパスには豊かな自然があります。それらは当然変わらず維持していく予定です。しかし、建築に伴う木々の伐採などはもちろんあります。
――木々の伐採も含めて、維持されるのかという心配があります。杉本キャンパスの8号館前の木々も伐採され、残念だなと思いましたので。
たしかに、伐採されましたね。あそこには、科学棟が建つ予定です。しかし、なるべく別の場所で確保するなど、できるだけ緑は維持していきたいです。木々があると心も落ち着きますし、重要だと認識しています。
――森之宮新キャンパスには、学情にあたる施設はあるのでしょうか。
もちろん、図書館はあります。しかし、学情には図書館の他様々な機能があります。それらすべてを持っていくことはありません。
――学部によってキャンパスが違います。例えば、文学部は現在杉本キャンパスにありますが、将来的に森之宮キャンパスに移設されます。学情にある文学部関連の蔵書が森之宮へ移されるのでしょうか。
現在、図書館委員会のほうで議論している最中でございます。森之宮キャンパスは2025年オ―プンなので、まだ時間的猶予はあると思います。しかし、森之宮キャンパスの図書館はそれほど広いというわけではないので、必要なものを移すという形になると思います。
――OCU UNIPAなどの学内システムは新大学のものに置換されるのでしょうか。それとも新大学のシステムと府立大、市立大のシステムが併存することになるのでしょうか。
システムが多すぎて、一概には申せませんが、最適なシステムになるよう設計をしております。
――学生証は、新規発行されるのでしょうか。
現市大生、府大生は卒業するまでは、所属は市大、府大所属となるため、学生証は現在使用しているもののままとなります。
――院試の出題科目、評価などは変わるのでしょうか。
詳細は7月にWEBに掲載される予定であります。また、現在公表されているものは予定でありますので、今後変更される可能性もございます。
――新大学の開学に伴う府大生と市大生の交流行事などは現時点で予定されているのでしょうか。
以前からそういった活動はございましたので、今後もそういった活動を引き続き行っていこうと考えております。また、現在学生たちが取り組んでおります案と致しましては、「万博に一緒に参加する」といったものがございます。
読者の皆さん、大学統合について理解が深まりましたか。質問を投稿していただいた皆さんもありがとうございました。市大がなくなることに抵抗を感じる方も少なくないとは思いますが、私たちは「卒業するまで市大生」です。市大生としての誇りを胸に、これから統合していくことで生じる不和を克服し、大阪公立大学(仮称)を盛り上げていきましょう。
※新大学の組織は設置認可申請中のため予定であり、今後変更の可能性があります。
文責
片山翔太 大川矢眞人(Hijicho)
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