学術情報総合センター1階にあるレストラン、野のはなハウス。ランチを食べに行ったり、パンや飲み物を買いに行ったりしたことがある人も多いだろう。実は、野のはなハウスは社会福祉法人「野のはな」が運営する、障がい者の就労支援を行う訓練場所でもある。自立した生活と就職を願う障がい者をサポートする仕組みと役割について、社会福祉法人「野のはな」の吉川卓次さんにお話を伺った。
ランチ後のゆったりしたレストランの様子=野のはなハウスで10月12日、行田美希撮影
ーー社会福祉法人「野のはな」について教えてください。
2003年に阪南市で設立した法人で、大阪府の拠点は4か所あります。そもそも社会福祉法人というのは、戦後に物資も何もかもない中、国に代わって国民にサービスを提供するために生まれたものです。主な事業として収益事業、公益事業、そして私たちが行っている社会福祉事業の三つがあります。野のはなは社会福祉事業を担当しており、主に障がい者の生活介護と就労支援を行っています.。
ーー野のはなハウスで行っている就労支援というのはどのような活動なのですか。
支援学校を卒業するときに就職できなかった人や、一度就職したものの仕事を続けられず辞めてしまった人を対象に、再度就職に挑戦し、社会に出るための訓練を行います。これまでの障がい者の就労支援は、タオルや服など小物を作る訓練が一般的でした。しかし、実際にはそういった支援はなかなか就職につながりません。野のはなハウスでは、いつか一般のレストランで働けるようになることを目指して訓練しています。配膳やテーブル拭き、オーダーを取るなどホールの仕事に加え、野菜のカットや洗い物などキッチンの作業も行います。
ーー野のはなハウスではどのような方が働いているのですか。
就労支援員や学生アルバイトなどのシェフ、ホールスタッフ約20名と障がい者8名が働いています。 障がいはその程度によって、障がい区分という1~6のレベルに分けられます。野のはなハウスで支援を受ける障がい者は、比較的軽めの障がい区分に属する人たちです。IQが2、3歳程度の障がい区分が重めの人に接客は難しいので、やはり区分に応じた支援が必要になってきます。一番重い区分になると、就労よりも生活をきちんと送ることが重要なので、支援も生活介護が中心になります。生活介護では主に創作活動やレクリエーションを行い、慣れてくると掃除にも挑戦します。何年も訓練すれば彼らも野のはなハウスのような作業場で仕事を手伝えるようになると期待しています。
ーー就労支援を受ける訓練中の人にも給料は与えられるのですか。
就労支援には大きく分けて二つの種類があり、会社などに採用される雇用型の就労支援「A型」と、就職を目指した訓練を継続して行う非雇用型の「B型」に分けられます。野のはなハウスで行っているのはB型で、給料ではなく工賃と呼ばれるお金が支給されます。
ーー工賃はどれくらい支給されるのですか。
工賃は給料のように最低賃金が定められているわけではなく、月に最低3000円とだけ規定されています。大阪府の工賃の平均値は月に1万5000円ほどと、全国的にも低いのが現状です。これだと時給100円程度しか与えられていないことになります。野のはなでは、月5万円の工賃の支給を目指しています。親が先立ち、障がい者が一人で生活することになったとき、グループホームに入れば障がい者7、8人で助け合いながら暮らすことができます。グループホームでは家賃や食費を合わせて月13万円ほど必要です。障がい者がもらえる障害年金は月7万5000円ほどなので、あと5万円あればホームに入ることができます。その分を補助することを考えた目標金額です。ホームに入らなくてもそれだけあればお金をためて自立して市営や府営住宅に入ることもできますしね。
ーー工賃を上げるにはどうすればいいのですか。
障がい者を支援すると国から一定の報酬(訓練等給付費)が与えられます。よって、野のはなハウスの収入源はレストランとしての売り上げと報酬の二つがあります。しかし、この報酬を工賃として障がい者のもとに回すのは法律で禁止されています。工賃に回すのはレストランの売り上げでなくてはならないのです。そのため、工賃を上げるためには、レストランの売り上げを伸ばす必要があります。
ーー売り上げを伸ばすためにどのような工夫をしているのですか。
障がい者が頑張って働いているから買ってください、というスタンスでは運営しません。それでは売り上げは伸びず、結果として工賃も上げられません。一般のレストランと同じようにおいしいものを提供するためにプロのシェフを雇い、メニューも工夫しています。最近では金曜日のみ提供する20食限定ステーキランチセットが誕生しました。原価度外視でやっているのでぜひ食べに来てもらいたいですね(笑)。また、お茶やジュースなどペットボトルの飲み物を100円で提供しているのも、野のはなハウスに足を運んでもらうための工夫です。
入って右手にある100円ドリンクコーナー=10月12日、行田美希撮影
また、くつろげる環境づくりにも力を入れています。図書館の中にあるレストランということで、内装は森の中の図書館をイメージしています。京都大学の食堂に影響を受け、一人でも訪れやすいようカウンターの「ぼっち席」も設置しました。ここに置いてある絵本も図書館らしさを出すためのアイディアですね。
絵本が並ぶカウンターからは外の景色がよく見える=10月12日、行田美希撮影
ーー障がい者が働きやすいように工夫しているところはありますか。
オーダーを取りやすいように、すべてのメニューに番号が振ってあります。これは、字を読むのは難しいが数字は読めるという人が多いためです。伝票にメニューの番号を書いてキッチンに渡せばオーダーが通る仕組みになっています。
番号でわかりやすく工夫されたメニュー=11月16日、行田美希撮影
ーーどのような利用者が多いですか。
教職員や事務員の方の利用が多いですが、もちろん学生もよく訪れます。新歓でパーティプランを利用してもらえることもありますね。休日には地域の人が食べにくることもあります。ケーキセットが人気で、カフェ代わりに使ってもらえることも多いですね。
ーー学生や利用者の方に望むことはありますか。
障がい者だから許される、ということがないようにしたいと思っています。障がい者が乱暴に配膳するなど店員として良くない振る舞いをしたら、お客さんもしっかり叱ってください。そうしないと野のはなハウスを出て就職したときに通用しません。普通のレストランの普通の従業員として接してもらえたらと思います。
シェフ一押しの手打ち麺のパスタ=11月16日、行田美希撮影
文責
行田美希(Hijicho)
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