~夫婦別姓に関する学内アンケート調査結果~
2015年12月16日、最高裁判所大法廷は民法750条 (注1) 及び733条1項 (注2) の規定に関して初めて判断を下した。民法750条は夫婦同姓を、民法733条1項は女性の再婚禁止期間をそれぞれ定める。判断結果は、夫婦同姓を合憲、女性の再婚禁止期間規定を違憲とするものであった。判決後、Hijichoは読者が身近な問題として夫婦別姓問題について考えることを狙い、「夫婦別姓」に関するアンケート調査を学内で実施した。アンケート調査の概要は以下の通り。
<調査期間> 2015年12月14日~20日 (ただし、回答は判決後とする。)
<調査内容> 夫婦別姓に関して、あなたはどう考えますか。
<調査対象> 本学の教員・職員・学生
<調査方法> アンケート用紙への筆記回答
アンケートは法・文・経済・理・生活科学の5学部と学生サポートセンター、女性研究者支援室、南食堂、第7合同部室棟で実施した。 (商・工・医及びその他施設では、諸事情により実施していない。)
合計474枚のアンケートを配布し、47枚の回答を得た。回答者の内訳は、教員 10 職員 17 学生 19 その他 1 であった。
以下、質問と回答を示す。
質問1: あなたは夫婦別姓について関心がありますか。
回答のあった47人のうち、「関心がある。」が34人、「関心がない。」が11人、「どちらともいえない。」が2人であった。
■「関心がない。」の理由として、次の意見があった。
- 名字を気にしたことがないから。(学生)
- 同姓・別姓のどちらでも良いと思うから。(学生)
- 結婚はまだ先のことであるし、また、自分は男なのであまり夫婦別姓について考えていないから。(学生)
- 自分は別姓にしようと思わないから。 (職員)
- 当面、このこと (夫婦別姓) とは無縁だから。 (教員)
- 婿養子に入るか、結婚しなければ良いだけのことだから。 (職員)
- 事実婚を含め、個人の自由にしたら良いのにと思うから。 (職員)
■考察
11月下旬から、多くのメディアで夫婦別姓問題が取り上げられていたことも関心を集めた一因であると考えられる。しかし、必ずしも全ての人が当事者意識をもって夫婦別姓問題を考えていたわけではないようだ。
質問2 :あなたは夫婦別姓について次項目のうち、どの立場ですか。
回答のあった45人のうち、「夫婦別姓を認めるべきだ。」が11人、「夫婦は同じ姓であるべきだ。」が7人、「別姓・同姓を選択できるようにすべきだ。」が27人であった。
■「別姓・同姓を選択できるようにすべきだ。」に対して、次の意見があった。
- 子供や社会、日常生活に弊害がなければ、別姓・同姓を選択できるようにすべきだ。 (職員)
質問3:今までに、名字にまつわるトラブルに遭ったことがありますか。次項目のうちから選択。(複数回答可)
回答数が少なかったため、個別に見ていく。「結婚の際、どちらの姓を選択するかでもめた。」は1人であった。「結婚後、同姓にしたことで様々な手続きの変更にてこずった。」は4人であった。具体的な意見としては、次のものがある。
- 実母と名前が違うことで、実母に頼まれた貯金を窓口で出金できなかった。この場合、委任状も全く意味をなさない。 (職員)
- カード名義、パスポート名義の手続きに苦労した。 (教員)
「姓を誤って書かれた、読まれたことがある。」は5人、「事実婚 (ここでは婚姻届を出さない結婚と定義する) の後、どうして姓を統一しないのか第三者から聞かれた。」が1人であった。
また、「離婚後、姓を変更したことで離婚を知られたくない人にも知られてしまった。」を選んだ人はいなかった。最も多かったのは「その他」で6人であった。 「その他」を選んだ人の事例は次のものである。
- 母の名字を名乗っていることに対して、なぜ父の名字でないのかを尋ねられた。(学生)
- 銀行ローンのため、夫はやむをえず私 (妻) の姓にし、通名で旧姓を使っている。姓が異なると、カードやパスポート、運転免許などの手続きで面倒が多い。(教員)
- 会社にかかってきた新姓での呼び出し電話で、「そんな人は会社にいない」と電話に出た人が対応した。 (職員)
- 家族が事実婚しか選択できなかった。 (職員)
- 事実婚をしている。夫婦として、他人と話していた時、姓が異なることを告げると不審な顔をされた。他人から内縁の妻と言われ、正規の夫婦として認めてもらえないことに辛さを感じる。 (教員)
質問4:仕事や学業の中で名字にまつわる弊害は存在すると思いますか。
回答のあった45人のうち、「存在すると思う。」が26人、「存在しないと思う。」が5人、「どちらともいえない。」が14人であった。
■考察
過半数の回答者が仕事や学業の中に名字にまつわる弊害が存在すると答えている。これが同姓・別姓の選択を難しくしているのであろう。
質問5:夫婦別姓について司法判断が下されたことをどう考えますか。
回答のあった44人のうち、「当然のことだ。」が15人、「司法判断よりも国会で議論すべきだ。」が13人、「その他の意見」が16人であった。
■「その他の意見」として次のものがある。
- 司法判断・国会での議論のどちらでも良いと思う。(学生)
- 家族制度を抜本的に議論すべきなので、社会福祉制度とともに国会での議論は必要だが、その前に夫婦同姓を定める民法規定を違憲とすべきである。(教員)
- 司法判断をふまえて議論をすべきである。 (学生)
- 国も司法も両方が議論すれば良いと思うが、別姓を訴えている人がそんなに多いのか疑問である。今は増税や戦争など、もっと国民のため、日本のために真剣に話し合うことはたくさんあると思う。 (職員)
- 訴訟が提起されたのだから判断せざるを得ない。(教員)
- 夫婦別姓についての司法判断は妥当ではない。 (職員)
- 本来、国民投票で決めるべきである。 (教員)
- 日本の慣習を変えない限り、別姓は可能にならないのではないか。男性側がもっと女性側の姓に変わることに抵抗がないようになると良いと思う。 (職員)
- 国民的議論が必要であると考える。(教員)
- 何か一つに決めてしまうのではなく、名字を二つとも使うとか奪う観点よりも発展的な議論をすべきだ。 (職員)
- ある程度は妥当と考える。夫婦別姓になれば便利だとか、女性の権利向上につながると考えるのは安易だ。子供と親の姓が不一致になるという不便もあり、結婚後に戸籍名は夫婦同一、仕事上や個人の選択により通称名も認められる社会になれば良いと考える。(教員)
注釈
(注1) 民法750条…「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の姓を称する。」と規定する。 裁判では、憲法13条 (個人の尊重)、14条1項 (法の下の平等)、24条 (両性の平等)との関係が争点となった。
(注2) 民法733条1項…「女は、前婚の解消または取り消しの日から6か月を経過した後でなければ、再婚することができない。」と定める。裁判では、憲法14条1項、24条との関係が争点となった。
参考: デイリー六法 平成27年版 (三省堂)
【文責】
丹下舜平 (Hijicho)
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