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解説 橋下市長、大阪市立大学 教職員による学長選挙の廃止を指示


橋下徹大阪市長は8月9日、大阪市立大の学長を、教職員による投票を経て決める現在の選考方法をやめるよう担当部局に指示したことを明らかにした。現在の西澤良記学長の任期は今年度末までで、9月ごろから投票が行われる予定だったが、見直しが検討されている。

橋下市長の発言要旨

日本維新の会によってYoutubeにアップロードされた8月9日の橋下市長の記者団に対する発言内容 (http://www.youtube.com/watch?v=H1Kn1IBk3Rc) を書き起こした。以下がその内容だ。

市長:大阪市立大学が、学長を学長選挙で選ぶというふざけたことを言ってましたが、そんなことは許しません。学長を選ぶのは市長の僕であり、選考会議なわけですから、それを教職員全員で違法投票をやるなんて話が僕のところに上がってきたので、とんでもないと。そんな何の権限もない、何の責任も持っていないメンバーが学長を選ぶなんて、一票を投じるなんて、そんなことはまかりならんと突き返したんですけどね。

人事権を行使するなんて当たり前の話でね。そのために選挙で政治家が選ばれて、政党が選ばれて、政権がつくられるわけですから。いわゆる人事権の行使は、強力な政治権力の行使。だからこそ、有権者は真剣になって投票しなければならないわけでね。そんなの当たり前の話ですよ。

記者:市長が学長を指名・任命するのが望ましいということでしょうか?

市長:選考会議で選ぶんです。選考会議の中に僕の意見というものは反映していきますので。学長選考会議というものがしっかりあって、その中で僕の意見も言いながら、最後に任命するのは市長ですよ。どうしてそのようなところで全教職員の投票をやらなければいけないんですか、おかしな話ですよ。それを今年度もやるということになったので、現在の選考方法をやめるよう指示しました。

前市長まではそれを許していたのかもしれないが、ガバナンス*にこれだけこだわっている僕が、学長を選ぶ任命権者は誰なんだと (担当局に) 言ったら「市長です」と。それならば、全教職員による投票は違法投票で、全職員の投票など許さんということで返したんですけどね。とにかく市立大学の学長選挙は止めます。

記者:大学については、昔から大学の自治について言われてると思いますがその件に関しては?

市長:大学の自治というのは、公権力が介入しないということです。学長を選ぶことが大学の自治じゃないですよ。教職員には何の責任もないわけですから、トップを選ぶ権限なんか与えたらどうなるんですか。法律の規定では、選考会議に基いて市長が任命する。まさにそれが民主主義ですよ。公立大学は税金で運営されているわけですから、教職員に全部決めさせるなんておかしな話でね。ちゃんと民主的な責任を負った市長が、法律の規定に基いて、最後市長によって任命されるということになっているんですから、その規定どおりきちんとやればいいだけの話なんですよ。

記者:大学の自治に関して、研究の内容に入っていくことがふわさしくないということですか?

市長:人事の任命のところまでが政治の役割であって、研究内容に政治がああだこうだ言うのは、大学の自治の問題になってきますけども。任命権、人事をやるなんてことは当たり前の話なわけですから。学長を選ぶのは市長なわけですから、前の市長まではそういうところをあまり考えなかったので、全部学長選挙ということでやっていたんでしょうけども、僕はそんなことは許しません。

※統治のこと。法的拘束力または上位圧力を行使して統治する「ガバメント」に対して、ガバナンスは組織や社会に関与するメンバーが主体的に関与を行なう、意思決定、合意形成のシステムである。

市大における学長選考の仕組み

大阪市立大学を設置・管理する公立大学法人大阪市立大学は、地方独立行政法人に当たる。地方独立行政法人法では、公立大学法人の理事長は、学内の選考機関の選考に基づき、首長が任命すると規定されている。 (公立大学法人の理事長は、当該公立大学法人が設置する大学の学長となる。)

地方独立行政法人法 第七章 公立大学法人に関する特例

(理事長の任命の特例等)
第七十一条 公立大学法人の理事長は、当該公立大学法人が設置する大学の学長となるものとする。ただし、定款で定めるところにより、当該公立大学法人が設置する大学の全部又は一部について、学長を理事長と別に任命するものとすることができる。

2 前項の規定により大学の学長となる公立大学法人の理事長(以下この章において「学長となる理事長」という。)の任命は、第十四条第一項の規定にかかわらず、当該公立大学法人の申出に基づいて、設立団体の長が行う。

文部科学省 地方独立行政法人法
文部科学省 「公立大学法人」制度の概要

この地方独立行政法人法に基づき、公立大学法人大阪市立大学定款では、理事長の任命は、理事長選考会議の選考に基づき市長が行うものとされている。理事長選考会議は、経営審議会及び教育研究評議会から選出された6人で構成される。

(理事長の任命等)
第10条 理事長の任命は、法人の申出に基づき、市長が行う。
2 理事長は、市立大学の学長となるものとする。
3 理事長を選考するため、理事長選考会議を置く。

公立大学法人大阪市立大学定款
公立大学法人大阪市立大学 組織・役員等紹介

橋下市長が有するのは最終的な任命権

規程を見る限り橋下市長が有するのは、あくまで選考会議によって選ばれた候補者を、最終的に任命する権利だ。現状、規程には選考会議に市長の意向が反映される旨は一切記載されておらず、選任過程にまで介入することはできないと考えられる。橋下市長は「法律の規程に基いて、最後市長によって任命されるということになっているんですから、その規程どおりきちんとやればいいだけの話なんですよ。」と規程について理解しているようだが、「選考会議の中に僕の意見というものは反映していきますので。」という発言には疑問が残るところだ。つまり、橋下市長に最終的な任命権があるのは間違いないが、誰を選んでも良いわけではなく、選考会議の申し出に基づかなければならならない。橋下市長は上記の規程を厳守し、その範囲内で権力を行使しなければならないのだ。

橋下市長は何を問題視しているのか?

特に橋下市長が問題視しているのは、全教職員による投票によって学長選挙が行われてきたという点だ。

市立大はこれまで、全教職員による投票で学長の候補者をある程度絞り、最終的に大学幹部や有識者でつくる理事長選考会議が学長候補1人を決定、それを市長が追認する形で任命していた。 市立大は「大学の自治を重視し、教職員の意向を反映できる仕組みにしている」と話し、国立大の多くが同様の制度を導入しているという。(参照:毎日新聞 橋下大阪市長:市立大の学長選、廃止の意向表明)

公立大学法人大阪市立大学理事長選考規程において、理事長の選考に際し、教職員による意向投票を行う旨は規定されている。

公立大学法人大阪市立大学理事長選考規程
(意向投票の実施)
第5条 理事長選考会議は、理事長の選考に当たり、法人内の意向を調査するため、意向投票を行う。
2 意向投票は、第一次意向投票及び第二次意向投票とする。

(第一次意向投票)
第6条 第一次意向投票は、別表に定める部局毎に第12条に定める最終選考期日前24日までに理事長選考会議が定める期日に行う。
3 第一次意向投票において投票権を有する者は、理事長選考公示の日に法人に在職する専任の教職員(公立大学法人大阪市立大学教職員就業規則第2条第1項に定める教職員をいう。以下同じ。)とする。ただし、休職又は停職中の者を除く。

(第二次意向投票)
第10条 第二次意向投票は、第一次候補者について、理事長選考会議の指定する期日及び場所において行う。
2 第二次意向投票において投票権を有する者は、理事長選考公示の日に法人に在籍する専任の教職員のうち次の各号に掲げる者とする。ただし、休職又は停職中の者を除く。
(1) 教授、准教授、講師及び助教
(2) 課長(室長、担当課長及び主幹を含む。)以上の職員

つまりこれまでの投票は上記の規程に則って行われてきたもので、橋下市長の「それだったら法律上全職員に投票させると規定させたらいいじゃないですか。」という発言はこの規程の存在を無視したものと言えよう。

教職員による投票は問題のあるものなのか?

教職員による投票は、ただちに廃止しなければならないほど問題のあるものなのか。橋下市長の論理としては、市大は市の税金で運営されており、教職員という何の責任もないメンバーが1票を投じるなんてまかりならないということだ。また、橋下市長は過去に「市大が勢いを失いつつあるのは、学長が世の流れを見て適切に人事を行えないから。学長のマネジメントを阻害しているのが教授会であり、これを徹底的に改革していく。」、「市大では、教授会による運営をなくし、組織で一番肝心であるマネジメント改革にしっかりと取り組んでいただきたい。元々ポテンシャルの高い市大が、世界に誇れる大学となるように、変えていってもらいたい。」と発言しており、学長のマネジメント力を強化していきたいという考えも持っている。(参照:新大学構想会議設置要綱(案)資 料 2-5)

はたして教職員は、大学の運営に対して何の責任もないと言えるだろうか。教職員は教授、職員、学生から構成される大学における重要な構成員であり、大学の自治の実現のためにも、意向投票を行う意義は充分にあるはずだ。今回の場合は、具体的な選考手続の変更について、市長という立場から一方的に指示するのではなく、学内での議論を踏むべきなのではないだろうか。また、一方的な廃止の指示は、大学の自治に抵触する恐れがある。

橋下市長発言と大学の自治

市長は大学の自治に関して「人事をやるのは当たり前の話だ」と発言している。しかしながら、これは大学の自治に抵触する恐れがある。

大学の自治は、日本国憲法に明文規定されていないが、第23条において保障されている学問の自由を実現するために必要な制度として位置づけられている。その具体的内容としては、(1)教員の人事に関する推薦・選任・免職等の諸権限、(2)学長・学部長等内部管理者の選任権、(3)学則・内規等内部規程の制定権、(4)教育課程・カリキュラムの編成権、(5)学位取得資格の認定権と授与権、(6)施設の管理権、(7)入学者の選定権、卒業認定権などであり、学長の人事も含まれるという考えが一般的だ。大学運営の方法も一定の範囲で大学内で決めることによって、初めて大学の自治が確保されるのは明らかである。

市長が有するのはあくまで選考会議によって選ばれた候補者を、最終的に任命する権利のみだ。橋下市長には、市長として、憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう諸規程を厳守し、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずることが求められる。今後の橋下市長の発言や動向に注視していく必要があるだろう。

参考

毎日新聞,橋下大阪市長:市立大の学長選、廃止の意向表明,2013年08月09日

・野中俊彦、中村睦男、高橋和之、高見勝利,『憲法Ⅰ (第4版) 』,2006年3月30日,有斐閣
・芦部信喜,『憲法学Ⅲ 人権各論(1) 増補版』,2000年12月30日,有斐閣

文責

鶴木貴詩 (Hijicho)


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コメント

    • 梅田 繁
    • 2013年 11月 02日

    大学の自由・自治・独立性を何としても守りましょう。

    • 山本幹夫
    • 2013年 10月 23日

    「許しません」という、その居丈高なケンカの売り方が許せない。市長選挙で当選したからと言って何もかも無制限に市民から権限移譲されたわけではないことをはっきりさせなければ。市議会も頼りないから市民が発言するしかない。ここでナメられたらどんどん踏み込まれる。

    • 橋野高明〈同志社大学人文科学研究所 研究員・日本キリスト教団 牧師)
    • 2013年 9月 07日

    今回の橋下市長の「市大学長任命権」発言は大学自治に対する許し難い反動攻撃です。橋下市長は「何の責任 もない教職員にトップを選ぶ権限を与えたらどうなるのか。研究内容に政治がああだこうだと言うのは大学の自治の問題になる が、人事をやる のは当たり前の話だ」と言っていますが、人事介入こそが自治介入の〈王道〉だということは、誰が観ても明白です。その場しのぎの政治利用発言にのみ頼る橋下市長は、その為にする市大への政治介入をすぐにやめて下さい。大学の自由・自治・独立性を何としても守りましょう。

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