本学商学部の教授が執筆した演劇脚本『継ぐまちファクトリー』が1月31日に発売された。
『継ぐまちファクトリー』は、京都で公務員として働いていた主人公が、ひょんなことから父親の町工場を継ぐことになり、様々な問題に直面するハートフルコメディである。昨年8月には本学の学生劇団「劇団カオス」が上演し、大きな反響を呼んだ。
『継ぐまちファクトリー』にはどのような思いが込められているのだろうか。著者である本多哲夫教授にお話を伺った。
『継ぐまちファクトリー』を執筆した本多哲夫教授=3月6日、加藤菜々子撮影
――執筆のきっかけは何ですか。
一つ目は、中小企業のことをもっと知ってもらいたいという思いからです。大企業のことばかりがテレビやニュースで取り上げられていますが、実は日本の企業の約99.7%が中小企業です。たくさんの人に中小企業について考えてほしいのですが、講義や学会などの堅苦しい場に足を運んでくれる人は限られています。そこで、みんなが親しみやすいように、コメディ演劇で自らの思いを描くことにしました。
二つ目は、中小企業を舞台とした既存の物語よりも、リアルを追求したかったからです。研究者からすると、従業員数が10人を超える中小企業は規模が大きい方です。実際、従業員数が4人以下の企業が全体の約6割を占めています。しかし、有名な小説や脚本の従業員数はたいてい10人以上です。そこで『継ぐまちファクトリー』では従業員数を9人に設定し、現実により近づけました。また、この脚本に書かれているエピソードのほとんどがノンフィクションです。研究活動の中で聞いたお話を織り交ぜて執筆しました。
三つ目は個人的なことなのですが、研究活動に携わって20年が経ち、何か今までとは違うことをしてみたいなという思いからです。
――実際に中小企業で問題になっていることは何ですか。
『継ぐまちファクトリー』でも取り上げているのですが、後継者問題は大きな課題です。日本の中小企業には、資金を借り入れる際に個人資産を担保提供したり個人保証を行ったりするパターンが多く見られます。つまり、企業の資金繰りが悪くなり経営が立ち行かなくなると、個人がその借金を背負うことになります。個人の生活を犠牲にするリスクを背負ってまで、事業を継いでくれる第三者はなかなかいません。だからといって自分の子供に無理矢理継がせるのも酷な話です。現在、経常収支が黒字にも関わらず、廃業を考える中小企業が増えています。その半分は後継者不足が原因です。
また、貸し渋りや貸し剝がしなどの金融問題はかつて多かったのですが、金融緩和により近年は減少傾向にあります。しかし、近年はグローバル化による低価格品の輸入増加やそれに伴う取引先企業からの値下げ要求などを背景に、経常収支の悪化が多く見られます。この本にもあるように下請けを突然切られ、経営が立ち行かなくなる企業も多いです。
他にも、この本では取り上げていませんが、人口減少や団塊世代の引退による人手不足が問題となっています。現在は、外国人労働者をさらに積極的に受け入れて労働力不足を補っていくことが検討されています。
――今後はどのようなことに挑戦したいですか。
実は、第2弾となる脚本を執筆しました。舞台は商店街です。今年もまた何らかの形で上演し、本として出版したいです。
また、「ヨーロッパ企画のブロードウェイラジオ!」という番組の中で、私が執筆したラジオドラマが放送されました。これも中小企業をテーマとしており、2月の放送回を担当しました。YouTubeにアップされているので、ぜひ聴いてみてください。こうした活動もまたやれたらいいなあと思っています。
――この記事を読んでいる人にメッセージをお願いします。
大企業に勤めれば一生安泰というわけではありません。リストラやデータ改ざんなどが社会問題となっています。この本が、本当にやりがいを感じられる仕事は何なのか、働くとは何なのかということを考えるきっかけになればいいなと思います。また、今年度から商学部に設置される公共経営学科は企業の地域性や社会性に重点を置いて学習を進めていきます。この本が公共経営学科を知るきっかけになればいいなとも思います。
多くの人に『継ぐまちファクトリー』を読んでみてほしいです。
文責
加藤菜々子(Hijicho)
この記事へのコメントはありません。