Episode3 「終わりの始まりはWebclassのメンテから」
お久しぶりです。編集長の羽戸です。夏休み限定特別企画、部員の自己満足で始まったリレー小説ですが、気づけば今年の終わりが少しづつ見えてきた時期になってしまいました。おかしいな…?
とはいえ今回、ようやく最終回を迎えます!物語を書くってほんとに難しくて、これを書いていた影響で最近睡眠不足でしたが、ようやく早く眠れそうです。どうぞお楽しみください!
夏休みだけのはずだったのに、木々は既に赤く染まり、季節は秋を通り過ぎようとしていた。
「怪盗アニマルズ」として市大で幾度となく迷惑行為を繰り返し、その度にHijichoのとりさんや肘野ちよとかいうちょっとおかしな奴らに追い掛け回され、仲間たちと少しばかりスリルのある楽しい日々を送っていた。
だが、日が経つにつれ次第にその仲間は減っていった。
Hijichoの奴らに見つかって逃げていった仲間もいるし、知らない間にいなくなっていたのもいる。
そしてついに自分だけ。できることにも限りが出てきた。でも、なぜか、やめる気にはなれなかった。
今日はなにをやってやろうか、楽しいことを探しにキャンパスに繰り出した。
「『もう後期になるのに友人ができません。マダム、どうすれば良いですか??』…だって、それでマダムは…『友達は出来るものではなく、作るものよ』。…そうだけど、行動するのが難しいんじゃない!ねぇ、そう思わない?」
へいへい、と適当な返事をして僕は記事執筆にうつる。ちよは最近HijichoのTwitterで始まった、マダム鳥子のお悩み相談箱を見ているらしい。
ちなみにマダム鳥子については僕もあまりよく知らない。お悩みには答えてくれるが、部員の中でも謎の存在である。
「っていうか、Twitter見る前に次号の作成進めてくれないかな?何で鳥である僕が働いて、ちよがぐうたらしてるんだよ。」
「いや、ちょっと鳥の手も借りたいほど忙しくて、人手不足だし手伝ってほしいなぁって。」
「それはよく分かるんだけど、だったらTwitter見てないでちよも…」
「ほーら、口じゃなくて手を動かして!」
なんて世の中は理不尽なんだ。『理不尽な社会はどうすれば変わりますか』とか、マダムに相談しようかな…。
「あ、また質問箱更新されたみたい。『Webclassがまた今週の土日にメンテナンスするそうです。この前したばかりなのにおかしくないですか?これはアニマルズの仕業ですよね?調べてください!』だって?!うそ、授業たくさんたまってるのに!やる気があるときに限ってメンテナンスが起こるのよね…。」
怪盗アニマルズ…。幾度となく学内で迷惑行為を繰り返していて、その度に(変なところで)好奇心旺盛なちよと僕は振り回されているものだ。少し前のことになるが、生協カードの残高が勝手に0円になってしまう事態が発生し、調べたところアニマルズのいたずらだということが分かった(前話参照)。
それらのいたずらを少し記事にしたこともあって、学生の間でもアニマルズは浸透しつつある。しかし、実は最近アニマルズの姿が全くつかめてない。これまでのように、派手ないたずらがなくなってきているのだ。もしWebclassの度重なるメンテナンスがアニマルズのせいだとしたら、かなり久々に僕らの目に留まったことになる。
あれ、というかそもそもWebclassのメンテナンスなんて知らなかったけど、そんなお知らせあったかな…。
「とりさん!何考え込んでんの?今から調査に行くわよ!久々のアニマルズ案件だわ…待ってなさいアニマルズ!」
僕は自分の意思を尋ねられることもなく、強制的にずるずると外に引っ張り出された。後から知ったことだが、先程の質問に、マダムは「それは不思議ね!Hijichoの部員が今すぐ調査に行くから待ってなさい。結果が分かればすぐにお知らせするわ!」と答えていたらしい。なんて無責任な、しかもちよの心に火をつけるような回答をしちゃうんだよ、マダムぅ…。
調べたってなにも出てこない…と思っていたら、そんなこともないようだった。聞き込みをしたところ、そもそもメンテナンス自体行われる予定はなく、質問箱に送られてきた内容が誤りだということらしかった。どうりでメンテナンスについて聞き覚えがなかったわけだ。
Twitterでもその旨お詫びしたが、幸いなことに特に大きな混乱は起こっていないようだ。
なんだか拍子抜けしてしまった僕らは、もやもやした気持ちを抱えながら部室に戻った。
「一体どういうこと?アニマルズがいたずらで質問を送ってきたってこと?それとも別の誰かが単なるいたずらで?」
「さぁね…。何でもアニマルズのせいにするのは良くないと思うけど。まぁ次からは質問箱の内容を確認して答えることだね。マダムがよく考えず答えちゃったからこんなことになったんじゃないか。」
「何ですって、とりさん?」
「!?」
聞きなれない声、明らかにちよではない、ということは…
「マダム鳥子…さん!?」
「お久しぶり、いや、初めましてなのかしら…?ごきげんよう、いかにも私がマダム鳥子よ。」
本当にいたのか…。あっけにとられてる僕とちよをよそ目に、マダムは落ち着いた口調で話しはじめた。
「あなたたちねぇ、私の登場に驚いているようだけど、そんな暇ないわよ。そのパソコン見てみなさい。大変なことになってるわ。」
タイヘンナコト…?マダムの登場以上にそんなこと…
「えええ??さっきまで書いてた記事がすべて消えてるよ!??何で?」
待って待って、色々起きすぎて脳の処理が間に合わない。
ちよもパソコンをのぞき込んできた。
「え、ど、どういうこと?記事全部なくなっちゃったの??」
「みたいだね…。途中でこまめに保存しておかなかった僕も悪いけど、多分何者かに『保存しない』が選択されて、そのまま消えちゃったんだよ…。」
「何やってんのよ!ちゃんと保存しなきゃ!」
「だってまさかこんなことに…。っていうか、そもそもこれはちよの仕事じゃないか!しかも、記事を書いている途中で無理やり外に連れ出したのはちよだろう?僕ばっかりに非があるわけじゃないよ!」
ついヒートアップしてしまった僕らに、またもや落ち着いた口調でマダムが話し出す。
「二人とも、怒ったって仕方ないわ。そんなことしたってデータは復活しないわよ。また一から作っていくしかないんだから」
ごもっともである。さすがマダム。
「それよりねぇ、私が気になるのは何者かが私を装って質問箱に答えてたってことなのよね。」
「え、ということはwebclassメンテナンスの質問に答えたのってもしかしてマダムじゃないってことですか?」
「当たり前じゃない。もし私が答えるなら、きちんと情報の真偽を確認してから回答するわ。でも、そんなの確認する暇もないくらい、その質問が送られてからすぐに勝手に回答されてるのよね。」
それを聞いて、ちよはハッと顔を上げた。
「そうか…!これで色々つながったわね!」
「というと?」
「つまり、犯人の主目的はデータを消すこと。そのために質問箱に投稿して、HijichoのTwitterを乗っ取って自分で回答して、私たちを調査に向かわせるよう誘導したってわけ。」
なるほど…。ちよの性格を知っていれば調査に向かうことは間違いないだろうし、悲しいかな僕も連れていくことになるだろう。しかも、マダム(本当は犯人)の回答に「Hijichoの部員が今すぐ調査に行くから待ってなさい。」っていうのがあったから、まぁ否が応にも僕らは調査に行かないといけなかったわけで…。
「まぁ犯人はアニマルズでしょうね。いつも追っかけまわされてるHijichoにいたずらがしたくて、部室でTwitterをみている私をみて思いついたのかも。Twitterを乗っ取るくらい、彼らには簡単なことでしょうし。」
ちよの決め顔。いつものぐうたらとは大違いだ…!
マダムは窓の外を眺めながら、ちよの推理にうんうんと頷いた。
「そうね…。まぁそれにしても、アニマルズもやることが姑息というか、つまらなくなってきたわね。前まではもっと派手だったはずじゃない?学生全体に影響が及ぶようなことばかりで。それが今回は記事のデータを消すって、なんだかやってることがくだらないわ。」
「いや、Hijichoにとっては一大事なんですけど…。まぁ、言われてみれば確かにそうですね。」
「ねぇ、やっぱりそう思うでしょう。だから次からは相手にしなくて良いわよ。きっとアニマルズもメンバーが少なくなってきているんでしょう。そちらで細々と勝手に楽しんでおけば良いのよ。そんなくだらない相手に、貴重な時間を使うもんじゃないわ。」
なんだかマダム、口調が厳しくありません…?そこまで言わなくても。
「さぁ、アニマルズの話はやめて、もう一度記事に取り掛かりましょう。相手にするだけ時間の無駄なんだから…」
そう言ってマダムがこちらを向いた時…
「ちょっとさっきから聞いてれば、随分と好き勝手言ってくれるじゃないか。」
窓の外から、全く聞き覚えのない声。そちらに視線を向けると、そこには一匹の鳥がいた。
なんだか僕に似てなくもない。
「え、もしかしてアニマルズのメンバーなんじゃない?あんたがデータ消したの?!」
ちよがぐっと詰め寄る。鳥は一瞬しまったという顔をしながらも、開き直ったようににやっと笑って言った。
「ああ、そうだよ。誰かさんにはくだらないとか何とか言われたが、君たちの慌てっぷりは面白かったし、すべて思い通りに事が運んで満足だよ。」
「そんなこと言って、私たちに相手にされなくなるのが怖くなったんじゃないの?せっかく思い通りにいったのに、こうして姿をさらしちゃうんだもの」
マダムはあきれ顔で、はぁ、とため息をついた。
もしかして…さっきの厳しい口調も、犯人をあおって姿をさらさせるためだったのか…?
同じことを鳥も思ったらしく、動揺を隠せないようだった。
「お、お前…はめやがったな?!」
「別に。私は何にも嘘をついていないわ。実際、アニマルズって言っても現在活動しているのはあなただけなんでしょう?」
「え?!じゃあアニマルズじゃなくてアニマルってこと??」
「ちよ、君はいったん黙ろうか。」
マダムはどこ吹く風で、いきなりやってきた鳥と目も合わせようとしない。
「な…、確かに、現在アニマルズは自分だけさ。できることに制限はあるし、派手じゃないかもしれない。でもお前らみたいに慌ててるやつを見ると楽しくて満足だよ」
「へぇ…。強がっちゃって、寂しいのね。本当は私たちと仲良くなりたいんじゃないの?」
マダムの言葉に、鳥の表情がかたまった。
仲良くなりたいって…どういうこと?敵だと思ってたのに、アニマルズはそんなことを考えていたの?
「べ、別にお前らと仲良くなんて…。むしろ厄介な存在だよ。お前らがいなきゃ、もっと仲間は残っていたかもしれないのに…。」
「へいへい、そんなこと言っちゃって。さすがの私もすべて把握したわ。」
ちよがさらに鳥に近づいて、にやっと笑った。
「なるほどね、寂しいから私たちに構ってほしくてこんなことをしたのよね。ほんとは仲間が欲しかったんでしょう?だったら、いいこと教えてあげる。友達ってのはできるものじゃなくて作るものなのよ。いたずらしてるだけじゃだめ。自分からどっかに所属するなりなんなりしないと仲間なんて簡単にできないわ。」
どこかで聞いたような言葉だ。ちよはここで一呼吸おいて、右手をさっと差し出した。
「だからさ、あなたもHijichoに入らない?」
驚いたのは僕だけじゃない。鳥も、マダムも少し驚きの表情を浮かべていた。
Hijichoに…?これまでさんざん迷惑かけられてきたアニマルズが…?
「いや、入るわけないだろ、何言って…」
「今かなり人手不足なのよねぇ。鳥の手も借りたくて。一人でも増えてくれたらこちらとしても助かるし、部員は多い方が楽しいでしょ?それに…消した分のデータはしっかりと元に戻してもらわなきゃ。ね、とりさんもマダムも良いでしょう?」
「そうね、名案だと思うわ。」
「…うん、まぁ僕も同じ鳥仲間ができてうれしい、かな…。」
鳥の姿は、さっきよりかなり小さく見えた。まさかの展開に恐縮しきってるのかもしれない。
ちよはいつも何をしでかすか分からないけど、今回は僕もさすがにびっくりだな…。
「ほら、こう言ってくれてるよ。他の部員もみんな良い人たちだし、きっとすぐになじめるわ。どう??」
「いや、でも…こんな、自分なんかが…」
「あーもう、ごちゃごちゃ言ってないで素直になりなさい!このまま一人でいたずら続けるのと、私たちと一緒に新聞作るのと、どちらがいいの?」
鳥は下を向いて、弱々しく口を開いた。
「…ほんとは…誰もいなくて悲しかったんです。だから…なりたいです、みなさんの仲間に」
「そうこなくっちゃね!大歓迎よ!よろしくね!」
無邪気に飛び跳ねるちよ。かくして、アニマルズはいなくなり、思いがけない形でHijichoの部員は増えたのである。
季節は少し変わり、木々の葉もたくさん落ちるころになった。
敵であったはずなのに、なぜか僕はHijichoの部員になっていた。
相変わらずちよさんは働かないし、とりさんはちよさんに言われて必死で記事を書いているし、マダムは入部した時以来見ていない。
一方の僕は、仲間がいるという久しぶりの感覚、何でもできるかもという気がしていた。
次は何の記事を書こうか、楽しいことを探しにキャンパスに繰り出した。
最後まで読んでいただきありがとうございました!これにてようやくHijichoとアニマルズの戦いは終わりです。感想とか…もしあればどこかに寄せてください。
さて、続いてのブログは今年入って来てくれた1回生同士による他己紹介です。どんなブログを書いてくれるのか、とっても楽しみにしてます!
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